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雑誌 特報

【NE本誌から】地デジのコピー制御方式見直し,「回数限定で1世代のみコピー可」へ

機器メーカーは録画機の改修が必須に

杉木 あさみ=Tech-On!
2007/04/04 17:27
 

日経エレクトロニクス2007年4月9日号,pp.8-9から転載しました。

 今回までに,「コピー・ワンス」の改善の在り方に関する議論は出尽くしたと思う。かなり深いところまで議論してもらった。ついに結論を出す段階に来たが,今言えるのは,「残念ながら全員が満足するものにはならない」ということだ──。総務省の諮問機関である情報通信審議会が開催する「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」の主査を務める慶応義塾大学 教授の村井純氏は,2007年3月29日に開催された同委員会の第13回をこう締めくくった。

 この日の会議で村井氏は結論を示さなかったものの,これまでの議論を通じ,「回数制限ありで1世代のみコピー可」というルールへの変更が濃厚になったと関係者は指摘する。受信機と録画機の一体型の場合に限り,コピー・ワンスで放送された番組は「1世代のみコピー可」という状態で蓄積し,その録画機から別の機器や記録媒体にコピーする回数に制限を設けるというルールである(図1)。受信機と録画機をIEEE1394などで接続する分離型の場合は,今まで通りムーブしか許可されないことになる。

 コピー・ワンスから新ルールに変更する場合は,「地上デジタルテレビジョン放送運用規定(ARIB TR-B14)」で定めた受信機仕様などの変更を伴う注1)。つまり,機器メーカーは新ルールに対応する仕様に沿って録画機のソフトウエアなどを開発し直す必要にられる。さらに,これまでに販売された現行のコピー・ワンスのルールに沿った録画機は,そのままでは新ルールに対応できない。

回数・世代の制限が不可欠に

 コピー・ワンス見直しの議論は,約2年にわたる長期間に及んでいる。機器メーカーは抜本的な見直し策として2005年秋に,受信機や録画機の改修を必要としない「EPN」への変更を提案した。しかし放送番組の著作権に関連する権利者団体や放送事業者らの強い反対に遭った。コピーの世代を制限できないEPNでは,ねずみ算的にコピーが増えてしまう可能性があると考えたためである。

 その結果,コピー・ワンスでもEPNでもない新しいルールの模索が続いてきた。例えば米Intel Corp.が2006年秋に提案した「1世代のみコピー可」で蓄積するという案である。しかし権利者団体や放送事業者には,コピーの回数が制限できないことは避けたいという思いがあった。2007年3月29日の会議では,「『回数制限ありで1世代のみコピー可』という案が落としどころだろう」という権利者団体らの意見が相次ぎ,回数と世代の両方を制限する案が有力になった(図2)。ただし,NHKの委員は「全番組をEPNで放送することはあり得ないが,教育番組などの公共的なものについてはEPNへの変更を積極的に考えていきたい」と表明しており,新ルールとEPNを併用することになりそうだ注2)

 今回の会議で委員の一人は「検討委員会として『既に録画機を購入済みの視聴者に買い替えを促す結果になっても仕方がない』と言ってあげないと,機器メーカーは踏み出せないだろう」と発言した。機器メーカーが一貫してEPNへの変更を主張してきたのは,放送波や受信機の仕様変更を必要とせずに,番組に多重する2ビットのデータを変更するだけで済むからだった。ARIB TR-B14に定められた受信機仕様に正しく適合する機種であれば,ユーザーに買い替えを強要しなくてよいため,2011年のアナログ放送終了という期限が迫る中では最善の策だと考えた。しかし結局,その方向では合意できなかった。

正確にコピー回数が分かるのか

 コピー制御のルール変更の方針が固まっても,まだまだ課題は残っている。コピーを何回許容するのかを決めるだけにとどまらず,コピーしたことを技術的にどのように解釈するかを決めなければならない。例えば蓄積した番組を家庭内ネットワーク経由で伝送するときに,「ストリーミング再生する場合は『コピー禁止』として出力する代わりに残りコピー回数は減らさない」「コピーする場合は『1世代のみコピー可』として出力して残りコピー回数を1減らす」といった振る舞いができるように仕様を検討する必要がある。

 今回の会議で機器メーカーの委員は,「伝送した先の機器が『コピーした』という情報を正確に取得するためには,DTCPなどの保護技術を変更する必要に迫られるかもしれない」と指摘した。その場合は世界で利用されている業界標準の保護技術を改めて見直す作業が必要になるため,実現までに再び長い時間を要してしまう。

 受信機能と録画機能の一体型の機器だけを改善対象としても構わないのかという課題も残る。機器間をIEEE1394などのデジタル・インタフェースで接続するDTCPでは,受け手側の機器に蓄積した時点でコピーは許容されなくなる。こうした状況を視聴者に分かりやすく説明するか,その他の何らかの解決手段を模索する必要があるだろう。

 長らく続いた議論がようやく終わる見通しが立ったとはいえ,やらなければならない作業は山積みである。新仕様の録画機をユーザーが利用できるようになるまでには,かなりの時間が必要になりそうだ。

注1) 詳細は決まっていないが,「n回までのコピーを許可する」という情報をデジタル放送波に多重しなければならない可能性もある。その場合,デジタル放送波に多重するテーブル情報の空きビットのいずれかに,コピーを許可する回数を格納する領域を設けることになる。その場合は放送局の送信設備にも影響が及ぶ。

※EPN(encryption plus non-assertion)デジタル・インタフェースでの出力や記録媒体へのコピーの際に,暗号化を必須とするものの,コピーの回数や世代には制限をかけないという考え方。インターネットへの再送信は事実上不可能となる。「出力保護付きコピー・フリー」と呼ぶこともある。

注2) NHKの委員はEPNへの変更を積極的に考えるとしたものの,「いつ,どの番組をEPNにするとは言えない。放送法で定められた『放送の自主・自立』を保つためだ」とした。

竹居 智久=日経エレクトロニクス

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