量子暗号は量子の性質を利用して送信者と受信者の間で安全に暗号鍵を共有する「量子鍵配送」技術である。今回はE91よりも後から登場した量子暗号プロトコル「B92」や「差動位相シフト量子鍵配送(DPSQKD)」と,量子テレポーテーションを使った中継の仕組みを説明する。 (山田 剛良=本誌)

石井 茂
日経BP社 主任編集委員

 前回までは,1984年に登場した世界最初の「BB84」と,1991年に登場し,量子からみ合い(EPR)という不思議な状態を利用する「E91」といった量子暗号(量子鍵配送プロトコル)を中心に説明してきた。BB84提案者の一人であるCharles H. Bennettは,1992年に新たな量子暗号を提案した。この量子暗号は,提案者名の頭文字と提案年から「B92」と呼ばれている。

 B92の考え方をBB84と比較しながら説明しよう。BB84では「縦横」と「斜め」という2種類の偏光方式それぞれに,例えば縦横なら縦が1で横が0という2種類の情報を持たせる。つまり,4種類の量子状態を使い分けて1ビットの情報を送る。これに対して,B92は2種類の量子状態で1ビットを送る。両者の一番の違いはこの点だ。