FileMakerだからできた、仕様が変わる中での短期開発

医療情報部の三浦浩紀氏
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 疼痛スクリーニングシステムの開発のため、研究代表の的場氏が医療情報部の三浦浩紀氏を訪れてプロジェクトの主旨を説明し、システム開発の協力を依頼したのが2012年1月のこと。翌月にはがん患者スクリーニングのパイロットデータ収集を開始、4カ月後の同年5月には本格運用を開始した。極めて短期間、かつ予算のない中でのシステム構築だった。

 三浦氏は、以前にもFileMakerによるドクターヘリ運用管理データベースの開発(http://techon.nikkeibp.co.jp/article/FEATURE/20141222/395761/?ST=ndh)や、電子カルテシステム(NEC製、MegaOakHR)とFileMakerシステムとのデータ連携(患者基本情報の取得)などを手がけたことがあったことから、SPARCSシステムもFileMakerを利用することとした。

 しかし、当初は的場氏も、痛みとつらさに関するアンケート結果を集計・管理するデータベースを構築したいという要望以外、データベースから何を引き出したいかを聞かれても、「痛みの治療が適切に行われているかを見たい」としか言えず、三浦氏らは、漠然とした要求を基にデータベース設計に着手せざるを得なかった。プロトタイプで検討しながら仕様を決めていくという、「まさに走りながらの開発」(同氏)だった。「時間やコスト、仕様変更が頻繁にある中で構築できたのは、FileMakerだったからです」と、三浦氏は振り返る。

 SPARCSシステムでは、全がん患者を対象として痛みのある患者を網羅的にスクリーニングするため、まず対象の実体と属性のデータソースを電子カルテの患者基本情報から取得する必要がある。このため、電子カルテシステムの参照系データベースにODBC接続してFileMaker側に取り込み、SPARCSの患者情報基本シートを構成することにした。

SPARCシステムの患者情報基本シート、バックが黄色の項目は電子カルテまたは各部門システムから情報が取り込まれる
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 ところが電子カルテの病名登録では、医師によって病名表記が異なる場合があり、がん患者のみを抽出することはできなかった。ただし、実際にはスクリーニング開始以降のがん患者を抽出できればいいため、「ローテクな方法ですが、電子カルテのフリーコメント欄に、疑いのある患者を含め『がん』と入力してもらうことでデータを抽出しました」(三浦氏)。

 また、各がん患者の痛みとつらさのアンケート結果と、それにひも付いた様々な情報を抽出する必要もあった。「痛みの主因が何か、痛みの治療効果がどうだったかを把握するには、腫瘍の進行度や転移の状況、さらに化学療法や放射線治療の有無などを知る必要があります」(的場氏)という要求からだ。結局、電子カルテからの情報抽出だけでは不十分なため、内視鏡治療、化学療法、放射線など、治療法に関する情報をそれぞれの部門システムから個別にデータ収集してFileMakerに取り込んだ。

 SPARCシステム上では、痛みとつらさを記録する画面で、安静時や動作時における痛みの評価スコアをNRS値(NRSに基づいた表現ができない患者はVRS[visual rating scale]値)、痛み以外の症状や生活情報も記録される。また、鎮痛薬の使用がある場合は、薬剤名・処方量を電子カルテのオーダー情報から取り込む。