弘前大学COI研究推進機構が2015年1月30日に弘前市内のホテルで開催した「弘前大学COIイノベーション・サミット」(関連記事1関連記事2)。同COI拠点と連携する九州大学による久山町研究、サテライトとして共同研究する京都府立大学COI-T拠点の活動概要について、九州大学大学院の清原裕氏、京都府立大学COI-Tプロジェクトリーダーの奥村太作氏がそれぞれ講演した。

日本の最大の課題は認知症

 世界でも例を見ない前向きコホート研究として知られる「久山町研究」。その特徴は、健診に加えて往診も実施し、受診率が80%以上と高く、疫学的に網羅的で有効なデータ収集を実現していること。さらに、死亡した住民の剖検率の高さも大きな特徴だ。「特に認知症の病型診断は剖検しないと確定できない。50年間で75%の方の剖検をしたが、これほどの剖検率を有する疫学調査は世界的にも例がない」と、九州大学大学院医学研究院教授の清原裕氏は言う。

九州大学大学院医学研究院教授の清原裕氏
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 久山研究における脳卒中の発症率の時代的推移を調査した研究では、60年代に男性で1000人当たり9.5人が発症していたが、70年代に半減し、その後も徐々に減少。しかし、2000年代では減少が止まった。女性は2000年代でもわずかな減少は見られるが、以前より減少率は低下している。一方、同じ動脈硬化性疾患の心筋梗塞の発症率はほとんど変化が見られない。

 その理由は、背景にある危険因子が時代とともに変化していると考えられると清原氏。動脈硬化の最大の危険因子とされる高血圧について40歳以上の時代的推移を調べ、60年代と2000年代の年齢調製後の集団を比較してみると、実は高血圧の頻度はあまり変わっていない。ただ、降圧剤による治療や禁煙などにより、脳卒中に発症率を減らした大きな要因と考えられる。

 しかし、その後に減少率が止まり、心筋梗塞の発症率に変化が見られない背景には、「高血圧治療や禁煙などの予防効果を、肥満や高コレステロール血症、糖代謝異常の増加が打ち消しているからだと考えた」(清原氏)とし、代謝性疾患に関係するBMIレベルやLDLコルステロール値が動脈硬化性疾患の危険因子であることを久山研究は明らかにした。