日本中が五輪の興奮に酔っていた2012年8月上旬。いち早くスポーツ分野への参入を宣言したのが、セイコーエプソンだ。8月8日に、腕時計型のGPS機能付きランニング機器「WristableGPS」の発表会を開催(Tech-On!関連記事2)。登壇した同社 代表取締役社長の碓井稔氏は、今後、スポーツや健康・医療分野の製品開発に力を入れていくと語った。これらの分野に向けて、「ウェアラブル(装着可能)をキーワードに、さまざまな機器を投入していくことを約束する」と鼻息は荒い。

 同社の強みは、「省・小・精(省エネルギー、小型化、高精度を意味する)の技術」(碓井氏)。特に、ウェアラブル機器の中核を担うセンサやGPSモジュールなどの電子部品を自社開発し、そこに独自のノウハウを投入できることが大きい。今回発表したWristableGPSでは、同端末と連携して使う別売品として心拍センサを用意したが、「ゆくゆくは両者を一体化したいと考えており、そのための開発を進めている」(同社)とした。同社には、センサなどのデバイス技術を強みに、機器の進化を自ら牽引できる強みがあるわけだ。

 続く8月21日には、そうした同社のデバイス技術をスポーツ分野のサービスに展開する取り組みが発表された。活用するのは、3軸の加速度センサおよび角速度(ジャイロ)センサを搭載した小型の運動解析システム「M-Tracer」。このシステムを、スポーツ用品大手のミズノが2012年9月に開始する、個々の消費者が最適なゴルフ・クラブを選択できるようにするサービスに展開する(Tech-On!関連記事3)。消費者がスポーツ用品店などでゴルフ・クラブを購入する際に、M-Tracerを手袋に装着してスイングをすると、そのフォームが自動解析される。その結果を基に、その人に合った最適なゴルフ・クラブを提示できるようにするという仕組みだ。ミズノは2012年9月22日から、このサービスを利用した「ミズノ BODY FIT GOLF(ボディフィット ゴルフ)」シリーズのゴルフ・クラブの販売を、直販店などで開始する。

M-Tracerを手袋に装着

 エプソンのM-Tracerは、角速度と加速度を計測するセンサと、運動データの解析や3次元的な可視化を実現するソフトウエアを融合させたシステムだ。今回、このシステムをBluetoothモジュールおよび小型のLiイオン2次電池と組み合わせて、重さ20gの小型モジュールに仕上げた。対象となる運動の角速度と加速度をセンサで計測し、解析結果をBluetoothで近くのタブレット端末などに転送する。スイング速度など五つの指標で、スイングのフォームの特徴を定量化できる。

フォームの解析結果をタブレット端末に表示

 ミズノ BODY FIT GOLFの開発を手掛けた鳴尾丈司氏(ミズノ 研究開発本部 研究開発部 主任研究員)は、M-Tracerを採用した理由を次のように話す。「ゴルフのスイングは非常に高速な身体運動であり、加速度は十数G、角速度は2000deg/秒に達する。そのため、これらに対応できる計測ツールが必要だった。20Gを超える加速度と、3000deg/秒までの角速度に対応できるM-Tracerは、打ってつけだった」。  

 エプソンに続いて、スポーツ分野に本腰を入れるエレクトロニクス企業は、この先続々と出てくるだろう。ロンドン五輪への国民の熱狂ぶりは、その後押しになるはずだ。2016年のリオデジャネイロ五輪では、そうした取り組みが日本人選手のメダル獲得に貢献するかもしれない。