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クルマ 自動車の最新技術を追う
 

第7回:10年越しの夢(上)

高野 敦=日経ものづくり
2012/05/01 00:00
1/2ページ
出典:日経ものづくり、2008年12月号 、pp.180~183 (記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)

【前回より続く】

(写真:栗原克己)

 最高のクルマを造るために,GT-Rの商品企画と開発を統括する水野和敏は,まず“人づくり”から着手する。この狙いは見事に当たり,メンバーは自身の成長に手応えを感じ始めていた。

 ところが,そうした雰囲気とは裏腹に,大きなプレッシャーを感じていた技術者たちがいる。変速機担当チームだ。従来とは全く異なる方式の変速機の開発に取り組んでいたからである。既に実績のある方式を改良する場合と異なり,新しい方式を採用するときには検証しなければならないことが山ほどある。人づくり期間は多少の問題が起きたとしても長い目で見守るつもりの水野だったが,こと変速機は商品コンセプトの根幹を成す部分だけに,悠長に構えるわけにもいかない。

サーキットでの開発の様子。日欧米の主要なサーキットが,GT-R開発の現場だった。
[画像のクリックで拡大表示]

 検証の場は,国内外のサーキット。ところが,この変速機がよく壊れる。いったん壊れてしまえば,最悪の場合,サーキットでの走り込みはその時点でおしまい。ほかのメンバーにも申し訳が立たない。変速機チームの苦悩は,日増しに色濃くなっていった。

滑らかに加速する

 これほどまでに技術者たちを悩ませた変速機は,何から何まで初物尽くしである。最も目新しい点は,エンジンを車両前方,変速機を車両後方に置く「トランスアクスル方式」を採用したこと。これは,車体質量の前後配分を最適化するためである。水野は,何年も前からトランスアクスル方式の構想を温め続けていた。

 さらに,自動MT〔手動変速機(MT)の機構を使った上でクラッチとシフトレバーの操作を自動化した変速機〕をベースとし,クラッチ部に「デュアルクラッチ方式」を採用したのも,全く新しい試みである。水野は,自動MTとデュアルクラッチ方式の組み合わせによって「滑らかに加速する」クルマを実現しようと考えていた。

 デュアルクラッチ方式は,奇数段と偶数段のギア群が二つに分かれており,互いに独立したクラッチを持つ。ギアを奇数段と偶数段に分けている理由は,変速にかかる時間を短縮するためだ。例えば,2速から3速に切り替える場合,2速走行段階で奇数段側を3速に入れておき,変速時に偶数段側のクラッチを開放しつつ奇数段側のクラッチを圧着していく。そうすることで,駆動力を伝え続けながら変速できる。

 だが,クラッチが一つの「シングルクラッチ方式」だと,そうはいかない。ギアを入れ替える際はクラッチを切り離す必要がある。この時間をどれだけ縮めても,クラッチを切り離している間はエンジンの駆動力を伝えられないので,加速度(加速G)が失われる。加速が滑らかではなくなってしまうのである。

 もちろん,水野は十分に理解していた。クラッチやシフトレバーを手動で操作するMT車には根強いファンがいること,そして従来のスカイラインGT-Rのユーザーにもそうした層が多数いることを。しかし,滑らかな加速を実現するには,自動MTとデュアルクラッチ方式の組み合わせは譲れなかった。

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