COLLEGE 製造業の“本当”を探求
 

第5回:「どうして動いたの」(上)

蓬田 宏樹=日経エレクトロニクス
2011/08/25 00:00
出典:日経エレクトロニクス、2007年10月22日号 、pp.141~142 (記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)
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【前回より続く】

群馬県と埼玉県の県境を流れる利根川(写真は共同通信社が提供) NIKKEI ELECTRONICS 2007.10.22 141(写真:栗原 克己)

 「がたん,がたん」

 道路の継ぎ目をタイヤが乗り越えるたび,車体が小刻みに揺れる。ハンドル,そしてシートから心地よい振動が体に伝わってくる。

 もう,あたりは真っ暗だ。遠くに,埼玉県熊谷市の街の灯が,ぼんやりと見えてきた─。

 三洋電機東京製作所がある群馬県 邑楽郡大泉町から熊谷市にある我が家に向かう。利根川にかかる刀水橋を渡ると,川べりの夜景が,スーッと流れていく。すると不思議に頭の中がスッキリする。モヤモヤしていたものが消え,何か新しい回路設計のアイデアが湧いてくる気がする。

 三洋電機の名野隆夫にとって,刀水橋を渡っているときが,一日で最も集中できる瞬間だ。会社から家までの時間は,わずか15分程度。しかし,名野にとってこの15分は,一人で思索に集中できる貴重な時間だった。

考えをぶつけながら整理する

 名野は,必死で頭を捻っていた。高効率で大電流を扱える,常識破りのチャージ・ポンプ型DC-DCコンバータICの回路を設計しなければならない。CCDカメラ・モジュールの電源に使いたいという顧客の要望を安請け合いしたことから,同僚から大反発を受け,結局一人で開発に取り組むことになった。

 とはいえ,チャージ・ポンプの設計だけに専念するわけにはいかない。所属するMOSLSI事業部 第1技術部ではDRAMの設計,業務時間が過ぎると若手技術者の教育がある。家に帰れば,博士号を取得するための論文執筆が待っていた。名野がチャージ・ポンプ回路のアイデアを練れるのは,車の中など,空き時間しかない。

 回路のアイデアが閃くと,名野は時間を置かずに群馬大学の小林春夫に電話をかけた。小林は,CMOSアナログ回路設計で名高い米University of California,Los Angeles校(UCLA)のAsad A. Abidi教授の門下生であり,アナログ・デジタル混載回路の研究で注目を集める研究者だ。

 小林に説明することで考えを整理する。そして小林から質問を受け,ときには問題点を指摘されることで課題を一つ一つクリアしていった。「ひとりで考えていても,絶対にいいアイデアには到達しない」。名野は自然とそう思うようになった。

 名野は小林に推薦された論文を,徹底して読み込んだ。チャージ・ポンプの古典といわれるJ. F. Dickson氏の論文から,最新の成果まで。決して英語が得意でない名野のために,いくつかの論文は小林が日本語に訳してくれた。自分で初めから読む際には,英語学習用の単語カードを買ってきて,分からない言葉をメモしながら少しずつ読み進めた。

逆電流が発生する

 論文を読破しながら分かってきたのは,これまでのチャージ・ポンプの用途は,フラッシュ・メモリが中心であることだった。フラッシュ・メモリでは書き込み/消去時に一瞬回路を動かすだけなので,変換効率はそれほど問題にならず,わずか数μAの小電流を扱えれば事足りた。フラッシュ・メモリ以外への適用を目指した報告もあったが,実用的でないとされていた。多段昇圧時の効率が50%程度とスイッチング・レギュレータ型DC-DCコンバータICの80~90%などに遠く及ばないためである。

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