「今の電気自動車の形態は『T型フォード』以来のエンジン車のプラットフォーム。エンジンが不要になれば,自動車業界にデザイン革新が起きる可能性がある」。三菱自動車開発本部MiEV技術部長の吉田裕明氏は,電気自動車のデザインの未来をこう語る。

 エンジン車において,パワートレーンを構成するのは,エンジン,トランスミッション,デファレンシャル・ギア(デフ),ドライブシャフトといった機械部 品だ。これらは回転をほぼ直線,もしくは直角方向に伝達していくように配置されるため,レイアウトの自由度は限られる。現実には,FF(前部エンジン・前 部駆動)かFR(前部エンジン・後輪駆動)かといった,限られた選択肢しかない。

「携帯電話機みたいなもの」

 これに対し,電気自動車では,主要部品がモータ,インバータ,2次電池,充電器と少ない上に,これらの部品はケーブル(導線)でつながるだけ(図1)。 もちろん,車両制御用ECU(電子制御ユニット)やアクセル,ハンドル,ブレーキも同じくケーブルによって連結される。つまり「X-by-Wire」が基 本となるのだ。機械系伝達要素とは異なり,ケーブルは長さの調整が簡単で,取り回しも自在だ。ボディの壁をはわせたり,中空部材の中を通したり,部品同士 の狭いすき間を縫って配線したりすることが容易にできる。逆に言えば,部品を車両のどこに持っていっても,配線さえすればきちんと機能する。

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図1●電気自動車の主要部品のレイアウト
ケーブルでつなぐだけで機能するため,さまざまな部品配置が可能になる。

 部品の形状も,比較的簡単に変えられる。例えば,モータは出力を維持しながら,細い形状にしたり薄い形状にしたりできる。加えて,同じ出力でもエンジン よりも小さく軽い。2次電池も同様に形状自由度が高い。従って,車両に対するモータや2次電池の搭載性も,エンジンに比べるとずっと高まる。こうした特徴 により,電気自動車では,設計の自由度がエンジン車に比べて飛躍的に増す。

 日産自動車常務執行役員(デザイン,ブランドマネジメント担当)の中村史郎氏は,電気自動車の設計について「携帯電話機みたいなもの」と表現する。同氏 によれば,電気自動車ではシャシーとアッパーボディ,2次電池の三つを切り離すことができるという。そのため,「ホイールが付いており,2次電池が搭載さ れたシャシーがあれば,アッパーボディはその上に載せるだけ。もっと言えば,顧客は自由に好きなアッパーボディを選んで載せ替えられるようになるだろ う」(中村氏)。ちょうど携帯電話機の筐体を取り換えるように設計できるという指摘だ。「設計者からすると,もう圧倒的に自由度が高まる。電気自動車にな ると,デザインの競争力で勝負することになり得る」(中村氏)。

 Part 1で述べた通り,構造が簡素な電気自動車では,「標準型の電気自動車」が生まれて同質化が進む恐れがある。だが,この設計の自由度の高さを生かせば,付加価値の高いデザインのクルマを造ることも可能だ。

航続距離を延ばすユニット