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第2回:「高速トランジスタや光デバイス」――2013年に500GHz動作のグラフェン・トランジスタが実現へ

野澤 哲生=日経エレクトロニクス
2011/01/18 08:00
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 グラフェンをチャネル層に用いた高速トランジスタの開発に最も熱心な企業の一つが米IBM Corp.だ。同社は2008年には最初のグラフェン・トランジスタを開発し,2010年12月の国際学会「IEDM 2010」で,ゲート長240nm,遮断周波数が230GHzのグラフェンFETについて発表するなど,一貫して研究開発をリードしてきた(関連記事)。

 ただし,最近はライバルが同社を猛追している。例えば,韓国Samsung Advanced Institute of Technology(SAIT)である。SAITは,IEDM 2010ではIBM社に迫る遮断周波数202GHz(ゲート長は180nm)のグラフェンFETを発表した。他にも,産業技術総合研究所と富士通研究所,NTT物性科学基礎研究所,米Boeing社と米GM社の共同研究機関である米HRL Laboratories, LLCなど非常に多くの研究機関や企業が開発競争に加わっている。

2年で性能が10倍に

 実際,現時点で最速のグラフェン・トランジスタはIBM社でもSamsung社でもなく,米University of California,Los Angeles校(UCLA)が作製したものである。UCLAは,IEDM 2010に先立つ2010年9月に遮断周波数300GHz(ゲート長144nm)のグラフェンFETを学術雑誌「Nature」で発表した(発表資料)。300GHzという遮断周波数は,GaAsやInPといった化合物半導体を用いたトランジスタに匹敵する性能である。

 ただし,UCLAのグラフェンFETは,ゲート電極材料にCo2SiのナノワイヤをAl2O3でコーティングしたものを用いるなど素子構造や材料がややエキゾチックである。 

 どこが開発するにせよ,特筆すべきは開発のスピードが非常に速いという点だ。例えば,IBM社がゲート長150nm,遮断周波数が26GHzのグラフェンFETを発表したのは,2008年12月のIEDMである。そこからわずか2年足らずで遮断周波数が約10倍になった。仮にこれが続くとすると,2011年半ばには化合物半導体での最速値約600GHzを超え,2011年12月には遮断周波数が1THzに届く可能性がある。

THz動作のトランジスタで電気と光がつながる

 各社がこうしたグラフェンを利用した高速トランジスタの開発に力を注ぐのはなぜか。一つは,THz動作のトランジスタが出来れば,これまで技術的に大きな違いがあったエレクトロニクスとフォトニクス,つまり電気と光の制御技術がシームレスにつながるためである。

 最近,テラヘルツ波と呼ばれる波長が0.1mm前後の電磁波でイメージ・センサなどを作製する技術がNECなどによって開発されている(日経エレクトロニクスの関連記事)。この場合の電磁波の周波数は3THzだが,この周波数で動作するトランジスタはまだないため,多くは「光側」,正確には赤外線を受発光する技術の応用だった。ところが,受光素子として用いられたボロメーターの応答時間は10μsと遅いため,「テラヘルツ波通信」といった用途には利用できなかった。

 テラヘルツ波の持つ潜在力や情報量をフルに生かすには,あたかも携帯電話機の電子回路のように,THzで動作する受発光素子や制御回路,信号処理回路が必要になる。逆に言えば,それらが実現すればミリ波通信を超える,数十G~数百Gビット/秒という超高速通信が可能になる。

 この分野の開発に熱心な研究機関の一つはDARPA,つまり米軍だ。DARPAは「Carbon Electronics for RF Applications(CERA)」というプログラムの中で,2013年に500GHz動作のグラフェンFETを実用化するという目標を掲げている。動作周波数を500GHzにするためには,一般には遮断周波数はその3倍,つまり1.5THzが必要になるが,これまでのグラフェンFETの高速化の勢いを考慮すると,十分に実現の可能性があるといえる。

光デバイスへの応用は非常に容易?

 グラフェンは高速トランジスタとしてだけでなく,光側の技術としても有望だ。具体的には,グラフェンを活性層材料に用いることで,紫外線,可視光,赤外線そしてテラヘルツ波を含む非常に広帯域な波長でのレーザ発振が可能になりつつある。光側の技術としても,と述べたが,「グラフェンのトランジスタへの応用には課題がいくつもあるが,光デバイスとしてはほとんど課題がない」(東北大学 電気通信研究所 教授の尾辻泰一氏)とまで断言する研究者もいる。

 この分野でも非常に多くの研究機関が開発に凌ぎを削っている。中でも東北大学や英University of Cambridge,シンガポールNanyang Technological Universityなどが研究をリードしているようだ。

 トランジスタだけでなく発光素子などもグラフェン製となれば,材料自体が高価な化合物半導体を用いる必要がなくなり,デバイス全体を大幅に低コストで作製可能になる可能性もある。

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