このためTD-LTEは,中国だけで利用されるにとどまると思われてきた。TD-LTEによる通信サービスの提供を積極的に表明してきたのは,中国 China Mobile Communications Corp.(中国移動通信)だけだったからだ。ところが2010年に入ってから,急速に風向きが変わり始めた。FDD方式のLTE(以下,FDD LTE)に加えて,TD-LTEを積極的に使う動きが,中国以外の国からも出てきたのだ。

 TD-LTEへの流れを特に印象付けたのが,米国でIEEE802.16eを使ったモバイルWiMAXサービスを展開中の米Clearwire Corp.の動きだ。同社は2010年3月,LTEの規格を策定する団体「3GPP」に対し,同社が保有する周波数帯域の2496M~2690MHz を,TD-LTEでも利用できるように申請したのだ。

†IEEE802.16e=固定向けのWiMAXの規格であるIEEE802.16-2004を移動通信用に拡張した規格。時速120kmの移動時にもデータ通信が可能で,基地局当たりの最大伝送速度は上り/下りとも75Mビット/秒に達する。

†3GPP(3rd Generation Partnership Project)=W-CDMAとGSMの発展形ネットワークを基本とする通信システムの仕様を検討および作成するプロジェクト。米国のATIS,欧州の ETSI,日本の電波産業会(ARIB),情報通信技術委員会(TTC),韓国のTTA,中国のCWTSといった各国・各地域の標準化団体が参加する。

 Clearwire社が進めるモバイルWiMAXサービスの伝送方式には,その次世代版として最大データ伝送速度を4倍に高速化させた仕様「モバイル WiMAX2(IEEE802.16m)」がある。Clearwire社は当然,IEEE802.16mを用いた次世代サービスを予定しているとみられていた。その同社が,同じ時分割多重方式のライバル規格であるTD-LTEの採用を検討していることが分かると,業界に大きな衝撃が走った。モバイル WiMAXサービスの将来が,一気に暗転したためである。

 国を挙げてモバイルWiMAXサービスの展開に注力してきた台湾でも,TD-LTEに移行する流れが顕著になっている。台湾でモバイルWiMAXサービスを提供中のFar EasTone Telecommunications Co. Ltd.は2010年4月にChina Mobile社と提携し,TD-LTEの実証実験を開始することを明らかにした。Far EasTone社以外のモバイルWiMAX事業者も,基地局メーカーに試験用設備の発注をするなど,水面下でTD-LTEサービス提供を検討中だ。こうした台湾事業者の動きに,「まさか台湾まで」と,関係者は驚きを隠さない。

―― 次回へ続く ――