前回から続く
米Texas Instruments Inc.はDLP技術を使ったリア・プロジェクション型テレビ の実現を目指していた。

プラスによる超小型のフロント・プロジェクタの実現など
ようやくDLP技術への認知度が高まってきた。
次は本丸となるリア・プロジェクション型テレビへの採用だ。
ここでも,共同開発先はやはり日本のメーカーとなる。
テレビ開発の豊富なノウハウを持つメーカーの元へ
米Texas Instruments Inc.のスタッフが説明に回る。
しかし,同社の提案をはるかに超える要求が突き付けられることとなる。

 すべてのテレビをDLP(digital light processing)に――。これを合言葉に,米Texas Instruments Inc.(TI社)のスタッフは再び,デジタル家電王国である日本を目指した。

 TI社は,日本のテレビ受像機の開発メーカーからの関心を喚起すべく,1995年ころから「エレクトロニクスショー」などの展示会で,動作デモを繰り返していた。フロント・プロジェクタを含むDLPを利用した応用製品が徐々に市場に登場し,だんだんとDLPの認知度も高まりつつあった。

 テレビ受像機の開発メーカーも,DLP技術を利用したリア・プロジェクション型テレビ(リアプロ)には強い興味があった。例えば米国では,1990年代末のデジタル放送の開始とともに,ハイビジョン放送が始まると期待されていた。ハイビジョンの魅力を出す際には大画面テレビが必須になるだろう。DLP技術を使うと,大画面テレビを比較的安価に実現できるかもしれない。そうした期待も,じわじわと高まっていた。

日立,松下,三菱に的を絞る

Adam Kunzman。現在は,日本テキサス・インスツルメンツ DLP事業部 事業部 長である。

「DLPを利用したリアプロの事業は,絶対に成功させたい。そのためには最高のパートナーが必要だ」――。

 新規事業として,会社からの期待を一身に集めるDLPだが,TI社にはテレビ作りに関するノウハウはほとんど存在しない。まずはテレビ作りにたけたメーカーと組み,その技術要求をフィードバックしていくことで,ノウハウを蓄積することを目指した。

 パートナー先には多数の候補がある。その中でも大手メーカーであり,テレビでの「絵作り」に対するこだわりが強い3社に狙いを付けた。日立製作所,松下電器産業,そして三菱電機である。TI社は,この3社を何とか口説き落として,DLPを利用したテレビ受像機の製品化を目標に置いたのだ。