資生堂は,ポリエチレン(PE)製のシャンプー容器について2011年以降に石油由来からバイオマス由来への転換を開始し,導入から1年以内に全量を置き換える予定だ。生の際のバイオPE使用量は年間4000t程度に達するという。

 「シャンプー容器には,落下衝撃に対する強度や,耐薬品性,触感の良さが求められる」(資生堂リサーチセンター化粧品素材研究開発C副主幹研究員の鳥居晶仁氏)ので,同容器は,PEの中でも比較的硬質の高密度PE(HDPE)を用いて中空成形で造る。「石油由来もバイオマス由来も分子構造は同じなので,強度や耐薬品性はあまり心配していない」(同社購買部長の坂井透氏)。実際にバイオPEのサンプルでシャンプー容器を試作して,石油由来PEと同じ条件で同等の品質や成形性が得られることを確認済みだ()。

図●バイオPEの容器
資生堂の試作品。左が植物由来のPE,右が石油由来のPEで造った容器。性能の違いは,基本的にない。

設計の工夫でコストは吸収可能

 石油由来PEとバイオPEの最大の違いは,バイオPEの価格といえる。バイオPEの価格は,当初石油由来PEの1.3~1.5倍となる予定であり,それは無視できない差だ。

 しかし,それを聞いた時,資生堂の坂井氏は「いける」と思ったという。「容器1個当たりのコスト差に置き換えると数円程度。容器の形状を変更したり容器を薄くしたりすることで吸収できる範囲」(同氏)だからである。そのようなコスト削減の手間を掛けても,バイオプラを使うことには価値があると判断した。

発表直後に問い合わせが殺到

 資生堂にバイオPEを供給する予定なのが,ブラジルBraskem社と豊田通商だ。Braskem社は,2011年1月にバイオマス由来のポリエチレン(PE)の量産を開始する。生産するのは,硬質容器や配管に向くHDPEと,フィルムなどに向く直鎖状低密度PE(L-LDPE)。年間生産量は計20万t。そのうち5万tを,豊田通商がアジア地域で販売する。

 シャンプーのように小売店で他社の製品と同じ棚に並べられるものでは,資生堂の決断の影響力は大きい。他社がやっているのに自社がやらなければ,負けを意味するからだ。実際,資生堂がBraskem社と豊田通商のバイオPEを採用すると発表した直後,豊田通商には多くの化粧品メーカーやヘアケア・ボディケア用品メーカーなどから問い合わせが相次いだという。

本シリーズは,日経ものづくり2009年8月号特集「こんなに使えるバイオプラのすべて」(pp.36-61)を大幅に加筆・修正したものです。(記事は同特集執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)