高度な機械的特性が求められる複合機の外装部品で,積極的にバイオプラの採用を進めているのがキヤノンだ。バイオプラ自体は,同社と東レの共同開発品。最高レベルの難燃性を実現したのが特徴である。

 難燃性の指標である「UL-94規格」の最高レベルは「5V」。複合機の外装部品も,5Vが求められるものの一つだ。キヤノンは,そうした外装部品の一部にポリカーボネート(PC)とポリ乳酸(PLA)のアロイ(複数のポリマを混合した高分子材料)を採用。2009年9月に発売した複合機「imageRUNNER ADVANCE C9000 PRO」「同C7000」「同C5000」の各シリーズに,PC/PLA製の部品を搭載した()。

図●外装部品の一部にPC/PLAアロイを採用したキヤノンの複合機とその部品
左上が「imageRUNNER ADVANCE C9000 PRO」シリーズの1機種,左下が「同C5000」シリーズの1機種。右のような外装部品で「5V」の難燃性を持つPC/PLAアロイを使っている。

 「難燃性を高めるためにPC/PLAアロイにたくさんの難燃剤を混ぜると,成形時の金型温度が高くなったり,衝撃強さが低下したり,流動性が悪化したりする。その改善が,一つのポイントになった」と,キヤノン映像事務機事業本部映像事務機環境推進部専任主席の園部明広氏は言う。複合機の外装部品で一般的なPC/ABSアロイと比べても「金型温度と衝撃強さは同等」(同氏),流動性については「量産に堪え得る時間」(同氏)としている。

目に見える場所も

 複合機のユーザーが直接手を触れる操作ボタンやタッチペンなどに関しても,バイオプラへの置き換えを進めている。「ユーザーに地球環境や極端な石油依存からの脱却を考えるきっかけとしてほしかったから」(キヤノンの園部氏)だ。

 素材はやはりPC/PLAアロイ(ただし,前出の難燃性5Vグレードとは成分などが異なる,PLAの比率は25質量%以上)で,具体的には東レが開発した「エコディア V554R10」(難燃グレード)である。操作ボタンやタッチペンなどで求められる機械的特性は,耐衝撃性や伸び。キヤノンが同複合機に採用した素材では,シャルピー衝撃強さ(ISO179)で8kJ/m2,引っ張り破断伸び(ISO527)で26%を達成している。難燃性は,UL規格の「V-0」である。

本シリーズは,日経ものづくり2009年8月号特集「こんなに使えるバイオプラのすべて」(pp.36-61)を大幅に加筆・修正したものです。(記事は同特集執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)