(前回から続く)

 家庭やオフィス,工場,店舗などの内部において,電子機器に対して電力を供給する給電システムは,約100年もの昔から交流(AC)給電システム一辺倒の状況が続いていた。ところが,これが変化しつつある。直流(DC)給電システムの実用化に向けた開発が急ピッチで進んでいるのだ。既に,データ・センターの一部では直流給電システムの導入が始まっている。

直流化で消費電力20%減

 なぜ最近になって,直流給電の開発が加速しているのか。背景には,地球温暖化などの環境問題に対する意識の高まりに加えて,サーバー機やストレージ装置,ルーターといったIT機器の消費電力の急増がある。現行の交流給電から直流給電に切り替えれば,給電システムの構成によるが消費電力を20%程度削減できる。

 例えばデータ・センターでは,電源の瞬断対策に向けて無停電電源装置(UPS)の採用が必須である。このため従来は,商用電力からIT機器内に至るまでに3回のAC-DC変換が必要で,変換ごとに10%程度の損失が発生していた(図1)。

図1■変換損失を減らして効率を高める
図1■変換損失を減らして効率を高める
現在,データ・センターでは,UPSを利用してサーバー機に電力を供給している例が多い(a)。この場合,系統からの電力を3回もAC-DC変換するため,変換損失が大きい。一方,直流給電が可能になればACDC変換は1回で済むため,損失は大幅に小さくなる(b)。

 これを直流給電システムに変更すると,商用電力を一度,直流電力に変換した後はそのままIT機器に供給できる。つまり,AC-DC変換の回数が1回になるため,損失が大幅に減る。もちろん,DC-DC変換は数回必要だが,それは交流給電システムでも同じである。従って,AC-DC変換が減った分だけ,消費電力を削減できるわけである。

 直流給電の開発が加速している理由は,もう一つある。太陽光発電が急速に普及しつつあることだ。太陽光発電の導入が進めば,発電した直流の電力を家庭や事業所でそのまま使いたいというニーズが高まる。

 直流給電システムを導入すれば,AC-DC変換に伴うムダを排除できる。太陽光発電で発電した直流電力を,家庭や事業所で使う電子機器にそのまま給電できるようになる。太陽光発電で作り出した電力を有効に使えるようになる。