(前回から続く)

 3次元(3D)の映像を映す「3Dテレビ」の本格的な普及が,2010年中にも始まりそうだ。パナソニックやソニー,韓国Samsung Electronics Co.,Ltd.など主要なテレビやパネルのメーカーが,一般家庭向けの3Dテレビの発売を目指して,積極的に開発を進めている。背景には,米国を中心とした3D映画や3Dゲームの成功がある。

 3Dディスプレイがメーカーから発売されたことは,以前にも何度かあった。だがこれらは,ことごとく失敗した。表示技術に課題が多く,しかも魅力的な3D映像がほとんどなかったからだ。今回は,ハリウッドという世界最大のコンテンツ産業が3D映像の普及を主導しており,少なくとも映画の分野では成功しつつある。

映画向けのメガネ式が主流に

 3D映像を3Dのまま表示する技術はいくつかあり,専用のメガネを利用する「メガネ式」と,裸眼でも3Dに見える「多眼式」に大別できる(図1)。このうち,近い将来の3Dテレビが採用するのは,ほとんどがメガネ式になる見通しである。今回の3D映像ブームは,映画産業が牽引しているためだ。テレビ・メーカーが選択できる表示技術もおのずと限られてくる。

図1■用途によって最適な表示方式が異なる
図1■用途によって最適な表示方式が異なる
既存の方式でも用途を適切に選べば,それぞれの長所を生かせる。当面は,メガネ式も映画やテレビなどで有力な選択肢になる。3Dテレビの開発の最終目標である「ホログラフィ」の実現には,まだ課題が多い。

 メガネ式は,左目用と右目用の映像をメガネで分離し,立体像を再現する方式である。ディスプレイが扱うデータ量が2次元(2D)の通常映像に対して最大でも2倍であるため,高精細にしやすく,見る角度を変えても映像が乱れないのが特徴だ。2D映像用のパネルがそのまま使えるか,比較的小さな変更で済むため,3D対応に伴うコストアップが小さいという特徴もある。

 メガネ式には「運動視差がない」という課題がある。運動視差とは,視聴者の視点の移動に合わせて,見える映像が変わるという性質である。ただし,映画館や家庭ではたいてい,3D映像を座って見るため,メーカーなどは運動視差がなくても大きな問題にならないと考えている。