(前回から続く)

駐車支援システムの開発で先行する他社の存在を知ったトヨタ自動車の開発チーム。
先を越されまいと「世界初」を信じて開発に邁進する。
幸い,2003年に発売する予定の新型「プリウス」への搭載が決まる。
2002年1月には同社の東富士研究所から里中久志と遠藤知彦が本社に移り
製品化に向けて正式に動き始めた。
ソフトウエア担当の岩切英之や評価担当の杉山享といった新たな人員も加わり
すべてが順調に進むかと思い始めるや否や,製品化を脅かす障壁が次々と現れる。

 「えっ,そんなすごいことをやっているんですか」

 杉山享は思わず耳を疑った。2001年も終わろうとしていたころ,上司から駐車支援システムの評価をやってみないかと話を持ち掛けられたときのことだ。「駐車支援システム」と聞いて杉山の頭にまず浮かんだのは,全自動で駐車できるシステム。考えただけでワクワクしてきた。もちろん上司には,その場で「やりたい」と即答することになる。

 ただ,よくよく考えてみると「そんな先進的なシステムを本当に実用化できるのだろうか」との疑問がフツフツとわき上がってきた。そして開発チームに赴くまで,その疑問が消えることはなかった。ところが実際,開発チームの最初の会議に参加して納得できた。「すべてが自動ではなく,操舵部分が自動なんだ」と…。

自車位置測定にGPS

実際の試作車でインテリジェントパーキングアシスト(IPA)の駐車精度やソフトウエアなどの検証を担当した杉山享氏。
実際の試作車でインテリジェントパーキングアシスト(IPA)の駐車精度やソフトウエアなどの検証を担当した杉山享氏。(写真:早川俊昭)
すぎやまとおる
1993年入社。第1電子技術部電子実験室に配属後,ブレーキやシャシーの電気系統の評価を担当。現在は車両電子設計部第2車両電子設計室に在籍。

 杉山に与えられた任務は,駐車支援システムを量産化するために実際の車両で駐車精度の検証やシステムに誤作動がないかなど,さまざまな検証をすること。まず杉山は世の中の駐車場の実態を調べ始める。街中の小さな駐車場から広い敷地内にある巨大な駐車場まで,駐車場ごとに車両を入れる枠の大きさは違う。それぞれの枠の大きさを調べて,実際の量産車ではどこまで駐車精度が必要なのかを探る必要があった。それと同時に試作車の駐車精度を把握するため,駐車誤差の測定も開始する。

 ところが,始めてみるとこれが非常に難しい。目標としている地点に対して最終的にどれだけずれたかは分かるが,車両が1m~2m移動した時点でどれだけ誤差が出ているのかは分からない。そこまで細かく測定する方法がなかった。

 そこで,まずは車両がどの位置にあるかを正確に知るために,自車位置を測定できる「RTK-GPS」を利用することにした。RTK-GPSは通常の GPSの衛星に加えて,地上に設置した簡易型の基地局を利用することで,位置精度を2cm以内で測定できる。これにより,車両がどのように移動していくかが正確に分かるようになった。