(前回から続く)

周りの目が…

 「ねえねえ岩崎君,一生懸命何やっているの?」

 試作車作りに取り組む岩崎に対する周囲の反応は思わしくなかった。

 「全自動の駐車システムなんですけど…。試作車を作ろうと思ってまして」
 「全自動の駐車システム? ふーん,大変そうだね。まあ俺には必要ないだろうけど」
 「……」

 駐車支援システムに対しての技術者の感想はこのようなものだった。自動車メーカーの技術者には運転に対する腕自慢が多い。そのためか,駐車支援システムはなかなか周囲から理解を得られなかったのだ。これじゃあ,まるで暗黒の時代…。岩崎は心苦しかった。

 そんな状況の中でも提案書の作成から約半年,試作車作りを始めてからわずか3カ月後の2000年春,ある決まった軌跡しか描けないものの,取りあえずはボタン1つで車庫入れを全自動で行うシステムがついに完成する。

 「百聞は一見にしかず」とはまさにこのことだ。実際に試作車ができて試乗できるようになると,周囲の反応は見る見る変わっていった。

 「なかなか面白いんじゃない」
 「結構使えるねぇ」

 多くの技術者が,システム自体に興味を示し始めてくれたのだ。「やはり,実物がなければ事は進まない」。岩崎はこう痛感する。同時に,岩崎にとっての暗黒時代は終わりを告げた。

 もちろん上司からも「ウチの部署だけで進めていく話ではない。本社の製品企画の担当者に相談しなさい」と発破を掛けられる。そして,製品企画室の担当者を交えて駐車支援システムの在り方を探っていった。

 「技術的には全自動の駐車支援システムも可能です。どうでしょう。商品価値はありますか?」
 「岩崎さん。全自動というのは,クルマ会社の責任問題から考えて現状ではやはり難しいですね」
 「そうですか。やはり駄目ですか…」
 「でも,全自動までいかなくてもその一歩手前のシステムでも商品性があると思いますよ」