トヨタ自動車が2003年9月に発売し,大ヒット中の2代目「プリウス」。
その装備として話題を呼んでいるのが,車庫入れや縦列駐車を支援する
「インテリジェントパーキングアシスト」(IPA)だ。
ステアリングを自動的に操舵するため
運転者はブレーキ操作だけで所定の位置に駐車できる。
開発のキッカケは,プリウスの発売から7年もの歳月をさかのぼる1996年。
毎朝,テレビで放送されているある情報番組だった。

 「里中くん,ちょっといいかな」
 「何でしょう? 部長」
 「最近は駐車が苦手な人が多いらしいぞ。なんか一つやってみないか」
 「えっ,どういうことですか」
 「まあ,とにかくニーズがあるんだ。考えてみてくれ」

  1996年,富士山のすそ野に位置するトヨタ自動車の東富士研究所で画像認識の研究に従事していた里中久志は突然,部長から声を掛けられる。そのころは,まさかこの会話がその後7年に及ぶ駐車支援システム開発の始まりになるとは,誰一人として知る由もないのだが…。

駐車がワースト1に

タイトル
「インテリジェントパーキングアシスト」(IPA)の開発責任者だった里 中久志氏。(写真:早川俊昭)
さとなかひさし
1983年入社。東富士研究所にて画像処理技術の車両への応用研究に従事する。白線認識センサの研究開発後,「バックガイドモニター」や「レーンモニター」の先行開発および製品化などを担当。現在は,統合システム開発部に在籍。

 部長がこんなことを言い出したのには訳があった。出張で東富士から豊田市にある本社へクルマで移動した際,偶然見たテレビ番組が事の起こりである。月曜日~金曜日の毎朝8時30分から,とある民放テレビ局が放送している情報番組。その中で,女性がクルマの運転で最も苦手なものとして挙げたのが,駐車だったというのだ。右折や駐車場の発券機への車寄せなど苦手とする項目が並ぶ中,堂々の1位に輝いたのが車庫入れだった。この番組をたまたま休憩で入った高速道路のサービス・エリアで,部長が見ていたのだ。

 「ニーズがあるからと急に言われてもなぁ…」。里中はどう対応すればいいのか,さっぱり分からない。1人,思案に暮れた。とはいえ,ともかく部長に言われたのだからやるしかない。しかし,何から手を着ければいいのか…。「まずは駐車のどんなところに困っているのかを探ってみるしかないな」。里中は早速調査に乗り出した。