LTEが与えるインパクト

 LTEが携帯電話機を大きく変える可能性があるとする理由は三つある。LTEが固定回線並みの通信性能をもたらすこと,そのLTEを実現するためのコストがすぐに下がること,そしてハンドセット型以外の端末も最初から想定していることである。

 LTEは,国際電気通信連合の無線部門であるITU-Rが3Gの規格「IMT-2000」で定めた周波数帯において,第4世代移動体通信システム(4G)「IMT-Advanced」に用いられる予定の技術を先取りしてサービスする方式である(第3部「いつの間にか『4G』へ昇華,1Gビット/秒超を目指す」参照)。W-CDMAやCDMA2000,その拡張版であるHSPA やEV-DOといったこれまでの3Gの方式との後方互換性は持たない。

 データ変調方式の多値化,複数のアンテナ同士で並行に送受信するMIMO(multiple input multiple output)の採用などによって,HSPAに対して最大6倍の周波数利用効率を達成する。現行サービスと同じ5MHz幅のほか,最大20MHz幅を想定しており,理論上の最大データ伝送速度はHSPAに比べて24倍の386Mビット/秒に達する(図3注2)

注2) 3GPPはLTEで,端末の性能の目安として5個の「カテゴリ」を定義した。(1)下り10Mビット/秒(MIMOなし),(2)下り50Mビット/秒(2×2 MIMO),(3)下り100Mビット/秒(2×2 MIMO),(4)下り150Mビット/秒(2×2 MIMO),(5)下り300Mビット/秒(4×4 MIMO),である。「HSDPAには12個のカテゴリがあった。多過ぎて分かりにくいという意見もあり,LTEではカテゴリの数を減らした」(NTTドコモの尾上氏)。

【図3 3Gとの後方互換性を排除して高速化】 LTEは,周波数帯域幅の拡大,データ変調方式の変更,MIMOの採用などによってHSPAと比べて最大24倍のデータ伝送速度を実現する(a)。周波数帯域幅が広がるのに従ってデータ伝送速度を高められるように,信号の多重化方式には周波数と時間で多重化するOFDMAを採用した(b)。3Gの基本技術だったCDMAは,周波数拡散した信号に乗ずる符号と時間で多重化する方式だった。
図3 3Gとの後方互換性を排除して高速化
LTEは,周波数帯域幅の拡大,データ変調方式の変更,MIMOの採用などによってHSPAと比べて最大24倍のデータ伝送速度を実現する(a)。周波数帯域幅が広がるのに従ってデータ伝送速度を高められるように,信号の多重化方式には周波数と時間で多重化するOFDMAを採用した(b)。3Gの基本技術だったCDMAは,周波数拡散した信号に乗ずる符号と時間で多重化する方式だった。
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 最大の違いは,下りの信号多重方式がCDMA(code division multiple access)からOFDMA(orthogonal frequency division multiplex access)に変わることである。IMT-Advancedで広い周波数帯域幅が割り当てられることを想定し,周波数帯域幅の拡大に比例して通信容量を高められる方式に移行する。LTEが4Gを先取りした技術といわれる理由は,ここにある。