「はい,チーズ」を大切に
オート・シャッターでも残すべき体験

 高度なオート・シャッター機能が普及した後でも,カメラの面白みを演出するために残した方がよいと思われるユーザーの体験が二つある。今はユーザーが望んでいるわけではないが,それらがスパイスとなってカメラや写真を楽しくしているからだ。

 一つは,ユーザーが「うまく撮れてくれ」と気持ちを込めてシャッター・ボタンを押すこと。自ら撮った写真だから,他人にとっては価値がなくても,撮影者自身が楽しめる場合は少なからずある。それ故,高度なオート・シャッター機能は,撮影者自らが撮ったと思えるユーザー・インタフェースとともに搭載されるべきと考えられる注A-1)

注A-1) 例えば,カメラ側でユーザーがミスしたことが分かっていても軽微ならばユーザーには伝えないことだ。ユーザーがシャッター・ボタンを押したタイミングがシャッターチャンスより0.2秒遅かったとしよう。0.2秒程度の遅延ならEX-F1のムーブイン連写で明らかなように,カメラ側があらかじめ高速連写すればシャッターチャンスを逃さずに済む。そしてユーザーには,高速連写によるシャッターチャンス,ピッタリの写真だけを見せればよい。

 もう一つは,「はい,こっち見て~チーズ!」という言葉掛けである。何も言わずに撮ることもできるが,あまりに味気ないし,被写体になる人に不快感を与えかねない注A-2)

注A-2) キヤノンの前野氏は,撮る前のコミュニケーションの意義を,子供の成長記録を例に説明する。「撮る前に撮影者と子供が行うやりとりも写真の楽しみの一つだ。極端に言えば,監視カメラを玄関に備えつけて日々,子供を自動的に撮れば成長記録らしきものは作れる。しかし,そんなことをする人はいない。撮る前のコミュニケーションが楽しく大切であることが現れているのではないか」(前野氏)。

 オート・シャッター機能や画像選択機能はこれまでのカメラ体験を大幅に変える。それ故,何をどこまでカメラ側で処理すべきかは,実際にモノを作り顧客に使ってもらって決めていくしかない。こうした投資を惜しまず続けていくことが,商品の競争力を高めるためには欠かせないだろう。

――次回へ続く――