共同ファブ構想が完全についえたのは,2005年3月のことである。ルネサス テクノロジが,トレセンティテクノロジーズの吸収合併を決めたことで,「マスタ・ファブ」の最有力候補が舞台から消えた。
マスタ・ファブとは,共同ファブ構想が最終的に実を結ぶ場のことである。マスタ・ファブに選ばれた工場は,11社の国内LSIメーカーが標準と認めたプロセス技術を導入し,世界に通用する日本版Siファウンドリーになるはずだった。既に技術の開発は済んでいた。2003年10月に完成した,先端SoC基盤技術開発(ASPLA:Advanced Soc Platform Corp.)†の標準製造プロセスである。あとは,この技術を大量生産が可能な工場に,コピーすればいい。
†ASPLA=先端SoC向けの設計・製造技術を整備するために日本の大手LSIメーカー11社が2002年7月に共同で設立した企業。2003年3月には国費315億円を使い,NEC相模原事業場の敷地内に90nm世代の試作ライン「先端SoC共同研究センター」を竣工,同年10月に試作請負事業を開始した。2005年9月に解散している。
技術の移転先として各社が期待したのが,当時ルネサスの100%子会社だったトレセンティである。2004年ごろには共同ファブ構想に参加したほとんどのLSIメーカーが,トレセンティを量産工場とする計画に合意し,資金まで提供する考えだった。ところが親会社のルネサスは,最後まで首を縦に振らなかった。ルネサスは,トレセンティを日本版Siファウンドリーとして独立させる案に,頑強に反対し続けた。