図1:電気自動車のコンセプト・カー「ピボ」。3名が乗車できる。キャビンの回転角は左右180度。前輪だけでなく後輪も切れ角を変える,いわゆる4WS機能も備えた。
図1:電気自動車のコンセプト・カー「ピボ」。3名が乗車できる。キャビンの回転角は左右180度。前輪だけでなく後輪も切れ角を変える,いわゆる4WS機能も備えた。
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図2:Brake-by-Wireのイメージ
図2:Brake-by-Wireのイメージ
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図3:写真中央の黒い部分に遠赤外線カメラを搭載した。
図3:写真中央の黒い部分に遠赤外線カメラを搭載した。
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 「モータ駆動やX-by-Wireによって何ができるのかを,カタチで示したかった——」。

 日産自動車は,初心者などにとって煩わしいUターンや後退の運転操作を不要にしたコンセプト・カー「ピボ」を「第39回東京モーターショー」で公開した(図1)。キャビン(人が乗り込む空間)だけをクルリと180度回転できるので,その後は前進時の運転操作をすればよい。全長が2700mmと小さいクルマでこうした回転機能を実現できた背景には,3つのエレクトロニクス技術がある。(1)走行に直接関わるシステムと運転操作を電気的につなぐX-by-Wireと(2)Liイオン2次電池セル,(3)モータである。いずれも同社自らが開発し,省スペースが特徴である(プレビュー記事)。

 (1)のX-by-Wireによってユーザーの操作とクルマの走行制御システムを,細いケーブルを介して電気的につないだ。「これまでのワイヤ・ハーネスや油圧パイプで結ぶと,それを通すキャビンの回転軸が太くなるばかりか,キャビンの回転によってそれが切れてしまいかねない」(同社の説明員)。ピボでX-by-Wire化したのは,ステアリングとブレーキ,シフト・レバーである。これらの操作信号を「ビークルコントローラ」と呼ぶ統合ECUに集めた後,配分することで車両に搭載するECUの数を減らしている。

 採用した車内LANインタフェース規格は,X-by-Wireで本命のFlexRayではなくCANである。ただし,基本性能はコンセプト・カーといえども追求したようだ。「走る,曲がる,止まるに関する性能は1999年から数百台市販した『ハイパーミニ』と同等を目指した。これが今回のコンセプト・カーで可能だったのは,自社開発したモータやLiイオン2次電池セルのおかげ」(説明員)という。

 (2)Liイオン2次電池のセルは,Al合金製ラミネート・フィルムを使う薄型品。円筒形のセルと比べて,セルを敷きつめた時にムダになる空間が少ないため,同じ体積で高い出力を得られる。今回は床下に設置した。セルの出力特性は2003年の東京モーターショーで公開した品種と比べて「向上している。充電時間を15分前後に短縮できるようにもなった」(説明員)。

 (3)のモータは,回転軸を2個備える。このため,モータは前輪,後輪のそれぞれ中間に1台ずつしか設置していないが,4輪を独立に駆動できる。具体的には,円筒形の固定子(ステータ)の内側に備えた回転子(ロータ)から延びた回転軸で右車輪を,外側のロータから延びた回転軸で左車輪を回す。各回転軸の出力は30kW。「同じ出力のモータを4個搭載する場合と比べて,搭載に必要な空間が大幅に小さい」(説明員)。ピボが使ったモータは,日産自動車が2003年の東京モーターショーで披露した品種という。

手かざしでエアコンを操作


 展示車両では搭載を確認できなかったが,ピボには「IRコマンダー」と呼ぶ非接触の操作システムも搭載したという(図3)。ステアリングの中央よりやや上方で手首から先を上げ下げすれば,エアコンの設定温度やオーディオの音量を上げ下げできる。ステアリングの中央よりやや下方で,指を1本~4本立てれば,それぞれに対応する動作を命じられる。例えば指を2本立て「チョキ」を出せば,ユーザーがあらかじめ設定したラジオ局を選ぶといった操作ができる。

 手の動きや形状は,遠赤外線カメラで検知する。内蔵する遠赤外線センサは日産自動車が開発し,2002年12月に公表したもの。遠赤外線センサの動作原理は「可視光や近赤外線を撮る撮像素子よりも,人などの熱源の有無を検知する用途に向けて,松下電工などが量産している赤外線センサに近い。ただし,これと異なり画素数が1536と多いので画像認識に用いることができる」(説明員)という。

 こうした遠赤外線センサを用いる利点は,可視光や近赤外線を撮る撮像素子と違って,撮影環境が暗くても動作に支障をきたさないことである。物体の形状は超音波センサでも検知できるが,「波長が遠赤外線より長いので手の形状を検知できる解像度を得にくい。画像を得るために超音波の反射に要する時間からいちいち演算しなければ画像が得られない点も問題だ」(説明員)。

 日産自動車は今後も,「我々にとって必要でも,半導体メーカーや電機メーカーがあまり手掛けていない部品は自ら開発する」(説明員)考えだ。ただし,量産設備に対する投資がかさむようば場合には,「半導体メーカーや電機メーカーの協力を仰ぐ必要もあるだろう」(説明員)という。