「2013 Symposium on VLSI Circuits」のSession 9「Emerging Memories」では、新型メモリ技術を用いたキャッシュ用メモリ、混載メモリ、検索用の機能付メモリTCAM(Ternary Contents Addressable Memory)の発表があった。単純な汎用の高集積チップの発表から、特定用途に特化したチップの発表が多くなってきている。

 1件目の米IBM社による論文(講演番号:C9-1)は、相変化メモリ技術をTCAMに応用したもの。TCAMは検索機能を持つメモリで、インターネットのアドレス検索などに活用されている。メモリ上に保存されたデータと検索データを比較して、一致したデータのアドレス等を出力する。現在はSRAMをベースとしているため、メモリ・セル・サイズが大きいうえに、揮発性であるため、動作時だけでなく待機時の消費電力増大が問題となっている。提案の方式では、メモリ・セルに相変化メモリを用いることで、不揮発化するとともに、メモリ・セルの構成が二つのトランジスタと二つの抵抗素子からなるため、90nm世代プロセスを用いた場合、0.41μm2まで小面積化できる。回路技術としては、2ビット単位でエンコードした情報を保存することで、検索結果が出力される信号線(マッチ線)のノイズを低減した。さらに、マッチ線のセンス・タイミングを最適化するために、タイミング生成用のリファレンス・アレイを配置し、検索速度1.9ns@1.2Vを実現した。

 2件目の論文(C9-2)は、東北大学とNECの共同チームによるSTT-MRAMセルを利用したTCAMに関する発表である(関連記事)。記憶素子は、垂直磁化方式のMTJ素子。CAMでは、チップ上のすべてのデータに対して検索動作が行われるため、消費電力の増大が問題となる。本発表では、メモリ・セルの不揮発化により、不使用時に電源を遮断するとともに、検索動作を数ビット単位で階層的に行いパイプライン処理し、不一致が判明したデータ対しては、以降の検索動作を行わないことで、高速化と消費電力を低減している。256ビットのテキスト検索の場合、200MHzでの検索が可能で、従来のSRAM TCAMに比べて、消費エネルギーを約1/600に低減可能な見通しを得ている。

 3件目の論文(C9-3)は、東芝によるキャッシュ向けのSTT-MRAMチップに関する発表である。65nm世代プロセスで製造し、容量は1Mビットを実現した。メモリ・セルは、高速化のために、2セルで1ビットを記憶するツインセル型を採用し、面積は0.45μm2である。本構成では、ビット線対に相補で信号が出力されるため、リファレンスレベルが不要という利点がある。STT-MRAMは待機時電力を低減できる一方、書き込み時の電力増大が課題であるが、今回書き込み電流50μA、書き込み時間3nsのMTJを用いることで、動作時電力もSRAM以下にできる見通しを得ている。また、MR比もプロセス改善により従来発表の75%から150%まで向上している。試作チップでは、250MHz動作を確認した。

 4件目(C9-4)は、2件目と同じ東北大学とNECのグループによる90nmプロセスの1Mビット混載メモリ用STT-RAMについての発表であった(関連記事)。提案セルは、SRAMセルに二つの磁性体素子を追加した構成である。通常のアクセスは、SRAMセルへ行い、10ns程度要するMTJへの書き込みは、バックグラウンドで実施することで隠蔽している。それにより、リード・ライトのランダムアクセス時間として1.5ns、2.1nsを実現した。試作チップでは、まだMTJの書き込み電流が大きいため、メモリセル面積は、90nm世代のSRAMに比べて大きいが、微細化とともに、書き込み電流が低減でき32nm世代移行は、SRAM以下に実現できる見込みである。

 5件目の論文(C9-5)は、台湾National Tsing Hua University、台湾ITRI、台湾TSMCの共同チームによるReRAMの発表である。電流書き換え型のReRAMでは、読み出し時のディスターブを考慮する必要がある。発表では、温度が変わっても、実効的に印加される読み出し電圧を一定にする方式を提案し、読み出しディスターブの低減と高速読み出し動作を両立。ロジック・プロセス・コンパチブルの2MビットのTiONベースのReRAMと、1MビットのTiONベースのReRAMの2種類を試作し、いずれも、4ns台の読み出し時間を実現した。

 Session 16「Embedded Non-Volatile Memory」では、不揮発メモリとそれらを応用したシステムに関して4件の発表があった。

 1件目(C16-1)は、ドイツTexas Instruments Deutschland社によるFRAMを使った低電力マイコン・システムの発表。FRAMに関しては、130nmプロセスにて容量64kバイトを搭載し、システム立ち上げ時間6.5μsを実現した。

 2件目(C16-2)は、米ADESTO Technologies社と米University of Virginiaの共同チームによるConduction Bridge RAM(CBRAM)と呼ばれているReRAMに関する発表だった。提案するメモリでは、書き込みを1pJ/ビット、消去を8pJ/ビットの低電力で行うことが可能で、生体計測などのセンサノードへの応用を想定している。メモリ・セルは、Ag/GeSの積層構造からなり、素子に流れる電流によって素子の抵抗状態を変える。最大0.6Vで読み出し/書き込み動作ができるため、混載メモリとして利用する場合に、チャージポンプ回路が不要になる利点がある。発表では、64kビット×2のCBRAMを搭載したセンサノード用の試作チップを紹介した。

 3件目(C16-3、東芝)と4件目(C16-4、TSMC)はROMの発表で、いずれも2ビットでコーディングしたもの。微細化とともに、メモリ・セル電流のバラツキが大きくなり、速度への影響が問題となる。それに対して、2ビットでコーディングすることで、メモリ・アレイの面積を増大させずにメモリ・セル・トランジスタのサイズを2倍以上にすることができ、電流バラツキを低減し、高速化を実現した。