承前

 1990年8月に設計技術推進部内に「共通化グループ」が新設され、私はそこにメンバー4人を引き連れて転出した。設計技術推進部は、「BIC(Best in Class)」活動のために1988年に設立された部署で、車両設計とパワートレーン設計の各部署から選出された設計者150人が在籍していた。

 BICは、他社の部品を横並びに分析し、最も価値(=機能/コスト)が高い技術を組み合わせることで、新たな価値部品を創出する活動である。ロータリーエンジンの実験部門という狭い世界で生きてきた私が、これから自動車全体を共通化していく上で、現役の設計者で構成された設計技術推進部は環境的に非常に良かった。早速、部内の各設計技術チームから協力メンバーを出してもらい、具体的な共通化活動に着手した。この時代は多くの活動に取り組んだので、そのすべてはとても書き切れないが、主要な成果を中心に紹介する。

<モジュール数の開発>

 部品を標準化するに当たり、最初に突き当たった課題は、「連続的に変化する部品諸元値を標準化するための合理的な方法を見つける」ことだった。部品を標準化するということは、部品の諸元値を標準化することである。だが、部品諸元値は連続的に変化する。これをどう標準化するという問題を解決する必要があった。

 そこで私が見つけたのは、JIS Z 8601「標準数」という等比数列の規格だった。この規格は、本文が4ページしかないのに解説(使い方の説明)が24ページもあった。しかし、この規格には、解説をいくら読んでも理解できない点が2つあった。1つめは、標準数の数値表は1.0から始まって10.0未満までしか書いてないので、10以上の数値についてはどうするのか分からないこと。2つめは、標準数を適用する部位と適用しない部位を区別する判断基準が分からないことだった。