JR九州が2013年10月15日に営業運転を開始した豪華寝台列車(クルーズトレイン)「ななつ星in九州」は、かなりの高額であるにもかかわらず、大変な人気を博している。今回は、ななつ星in九州のデザインに和のテイストを多用した理由と、その背景にある日本人ならではの感性はどういうものか、それをどう生かすかについて話してもらった。

(ななつ星in九州の企画の経緯などは第1回に掲載)
関連記事を日経ものづくり2014年1月号に掲載)

――「ななつ星」の話に戻るんですが、細かいことで1つお聞きしたかったのは、内装に木を使うことです。燃えたら困るわけですが、どうクリアしているんですか。

「ななつ星in九州」の室内。内装には伝統工芸「組子」も多く用いた。

水戸岡氏:あれは簡単なんですよ。本来なら本当の木の塊を使いたいんですけれども、それでは燃えるから、不燃にしなさいっていうことになっています。ですから、下は全部アルミニウム合金で、0.2mmの薄い木を表に張っているんです。見た感じではほとんど木の塊。アルミのくし型で抜いたものに、1枚1枚ひたすら張っていく、職人さんの仕事で造ったんです(関連記事)。

――0.2mmだと燃えないんですか。

水戸岡氏:アルミの上に0.2mmのシート張ったものは、炎を当てて一定時間燃えないなどの条件をクリアしています。改めて試験を受けなくていいんです。

――手で触ったときにアルミの感じはしないんですか。

水戸岡氏:0.2mmってすごく薄いんですけど、アルミの感じはしないですね。本当に薄くて紙みたいなものなんですけれど、でも0.2mmでも紙ではなくてあくまでも木ですから、感じは十分出ますね。

 木は私たち日本人にとってもともと、一番心地良いっていうか、懐かしく感じる素材ですよね。日本人は、昔は土と紙と木、わらだとか草だとか竹だとか石だとかね、そんな自然のものに接して生きてきましたから、多くの人が何となく好きな素材がやっぱり木なんですね。このアルミに張った木はある意味では偽物で、熱伝導率が高いんで触ると少し熱を取られますけども。

 木は人間の体温を保ってくれるんで、人間にとっては心地良い、自分を守ってくれる素材なんです。土も、紙も、草もみんなそうです。鉄や金属になってくると熱伝導率が高くて体温を取ってしまうんで、あまり心地良くない。人間も、もともと動物の1つとして木とか紙とか草といった自然のものに、直観的に安全さ、心地良さを感じるんでしょうね。

 それを経済優先で考えると、そんなもの使うなって話になり、ガラスや鉄、アルミ、プラスチックといった材料になっていくんですよ、効率が良いから。量産可能で、メンテナンスが容易で、均一性があって、コストも安く加工性も良くて、良いことだらけなんですよ。でもそういったものは、本当のことを言うと心と体には、心地良くないんですね。