JR九州が2013年10月15日から営業運転を開始した豪華寝台列車(クルーズトレイン)「ななつ星in九州」は、かなりの高額であるにもかかわらず、第1期(2013年10~12月)分の抽選倍率が7倍にもなり、既に第3期(2014年4~6月)分まで売り切れている(JR九州企画販売分)など、大変な人気を博している。2014年初めから販売される第4期(2014年8~11月)分からは、料金を1~2割値上げする(3泊4日で1名当たり43万円から)。
 このようなヒット商品がどうして生まれたのか、企画や車両デザインの背景にどんな考え方があったのか。車両をデザインした水戸岡鋭治氏にとっても、これまでにない感動を覚えた仕事だったという。
関連記事を日経ものづくり2014年1月号に掲載)

――「ななつ星in九州」が大変な人気です。この列車の前にも、JR九州のさまざまな列車を手掛けられたそうですが。

「ななつ星in九州」(JR九州)の車両をデザインしたドーンデザイン研究所代表の水戸岡鋭治氏
写真:尾関裕士

水戸岡氏:これまでのことも振り返ってお話しますと、この25年間、ずっとJR九州の仕事をやってきました。鉄道に関しては素人だった私をJR九州の多くの専門家、車両、運行、施設、営業といろんな人がレクチャーしてくれて、私のデザインのベースをつくってくれたわけですね。

 実はそのころ、今から20年以上前に787系特急電車(つばめ)をデザインするとき、九州は食べ物もおいしいし人も面白いし、自然もたくさんあるし、そういう良いところを見なから九州を一周すると楽しいだろうなと思っていたんです。それで“アラウンド・ザ・九州”という企画書を作って、「大鉄道時代が来る」と、わけ分からないことを20年以上前に言いました。そのときは誰も何も感じてくれませんでしたが、ともかく勝手にそう考えてホテルばりの車両を、4時間走る特急向けにデザインしたんですね。それが走ったらすごい人気で、それで私のことをJR九州が少し信用するようになってくれて、ずっと今に続いているというわけです。787系のあと、さまざまな特急車両や観光列車を次々と担当しました。

 それから長い時間が経って3年半ぐらい前に、JR九州の社長(唐池恒二氏)が「九州一周旅行専用の車両を造ると面白いかもしれないね」というようなことをおっしゃいました。「おお、それはすごい、大変な列車になりますよ」と思いましたが、「そんな列車をJR九州は本当に運営できるんですか」とも聞きました。最初、社長は本気なのかどうか分かりませんでしたし、私なんかは夢にまで見た話ですけれども、採算が取れる計画になるわけがないので、「本当にやるんですか」ってお聞きしたわけです。そうしたら「やる」というお話で、欧州の有名な豪華寝台列車「オリエント・エクスプレス」のような列車をつくろうと。オリエント・エクスプレスそのものはつくれませんけれども、JR九州流のオリエント・エクスプレスをつくるのは面白い、と思って取り組み始めました。