図1 新型スマイルカーブ
図1 新型スマイルカーブ
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 あけましておめでとうございます。本年より、日経エレクトロニクスは編集体制が変わります。前任の大久保の後を継いで、今井が編集長になりました。今年も雑誌やネットの記事、各種のイベントを通じて、電子業界に刺激を与えていく所存です。

 昨年末に、電子業界の先行きを考える上で興味深い話を、ある大学教授から聞きました。最近、電気電子系の学科の教授から、回路設計などを専門とする従来の本流だった人材が減り、物理系と情報系の人材への2極化が進んでいるというのです。そのイメージを示したのが図1です。物理系は回路設計の上流、情報系は下流と考えると、それぞれの研究に従事する人材の数が両端に行くほど増える、いわゆる「スマイルカーブ」の形状になります。

 この図から読み取れるのは、今後の電子業界で技術革新が生まれやすい領域が上流と下流の両側に移動していることと言えそうです。新発見への期待が大きいから研究者が集まり、多くの研究者がいるほど新たな知見が生まれやすくなるわけです。実際、我々が取り上げるニュースにもそういう傾向があるように思います。上流の領域では、スピントロニクスや有機エレクトロニクスといった新原理や新材料を用いる素子の研究、化合物半導体や新方式のセンサなど部品の開発も盛んです。下流側では、情報システムと連携して電子技術の応用範囲が広がっています。自動車や医療、インフラや農業といった幅広い分野で、コンサルタントの川口盛之助氏が「電装化」と呼ぶ動きが活発です。

 こうした変化を受けて、電子技術者の活躍の場はますます拡大するでしょう。下流では、これまで電子技術の恩恵を受けていなかった分野の開拓がいっそう進みます。上流で生まれた革新的な技術を生かす機器やシステム、サービスを見つけるのも電子技術者の役割です。もっとも、こうした仕事が一筋縄でいかないこともまた事実。斬新な技術には、得てして「死の谷」が待ち受けます。新分野の隠れた需要を掘り起こし、有用性の高いシステムを構築するには、どうしても試行錯誤が不可欠です。このような難局を乗り越えるために、これからの電子技術者には幅広い技術や応用分野への目配りが必要になるはずです。日経エレクトロニクスは、できる限りアンテナを広げて新しい動きをいち早く報道し、電子技術者の活躍を支援していきます。

 一方で、これまで電子技術の中核だった回路や機器の設計では、技術の汎用化が進んでいます。今をときめくスマートフォンやタブレット端末では、半導体メーカーの用意するリファレンス・デザインがほとんど製品といえる水準に達し、今後は半導体業界の寡占化も加速していきそうです。この結果、電子技術者には汎用的な技術を自らの用途で適切に使いこなす能力が求められていくでしょう。また、下流で広がる様々な分野の応用といえども、センサなどの入力を基に情報処理や機器の制御を実行するといったシステム構成や、ソフトウエア開発、通信、電源管理、雑音対策といった技術の基本は一緒です。日経エレクトロニクスは、汎用技術の効率的な活用方法や、幅広い分野に共通する基盤技術の解説も充実させることで、現在の事業がいつまで続くかわからない激動の時代に生きる電子技術者を支えていくことも目指します。

 新原理・新材料、新分野の開拓や、電子技術者の再教育は以前から重視されてきました。ただし今ほど重要性が高まったことはなかったはずです。これまで電子産業には、新たな巨大市場を立ち上げ、部品の需要も牽引する大きな柱がありました。パソコンや携帯電話、薄型テレビなどがそうです。ところが、スマートフォンやタブレット端末に続く、産業全体の牽引役は今のところはっきりしません。それどころか、デジタル民生機機で他国企業の後塵を拝した日本企業は、新たな事業の柱を打ち立てることが喫緊の課題になっています。

 2014年は、各社が自社ならではの得意分野を模索し、確立していく年になるでしょう。同じことは日経エレクトロニクスにも言えます。図2は、今年本誌が注力していきたい領域のイメージです。こうした分野を強化することで、これまで以上に電子技術者の方々に役立つメディアを目指します。引き続きご愛顧のほど、よろしくお願い申し上げます。

図2 日経エレクトロニクスの注力分野
図2 日経エレクトロニクスの注力分野
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