どうしてスマートテレビか

 テレビもスマホもコモディティ化してきている。コモディティ化からの脱却を図るために、韓国や日本のテレビメーカーは、資金と時間をかけても、有機EL(OLED)と4K/8Kの開発に力を注ぎ、新たな市場を開拓している。それと比べて、基礎技術の研究開発にまだ弱い中国のメーカーは、既存技術の組み合わせや、グローバル連携、資金力とコンテンツの活用といった“商人”らしい経営手法、つまり、国内外の利用可能なリソースをいかに早く上手に活用するかに力を入れている。OLEDと4K/8Kなどの市場が立ち上がったら、液晶やHD技術と同様に、パネルやLSIを購入すればよいとの考え方だ。

 さらに、楽視網では、オープンOSのAndroidベースのスマートテレビ向けアプリの開発にも力を入れている。この種のアプリは、ハードにそれほど依存しないため開発が比較的容易であり、しかもハードよりローカルニーズと密に関連しているからだ。例えば、このコラムでも紹介した「イノベーション工場」とも連携して、UIやアプリの開発に取り組んでいる。実は、これは楽視網だけではなく、他の中国のテレビメーカーも、スマート機能をセールスポイントとして、海外ブランドとの対抗を狙っている。

 「スマート」という言葉には、多機能による便利さを指す意味合いがある一方、商人の賢さに近い意味も含まれている。ところで、どうしてテレビという言葉の前に、「スマート」という言葉をわざわざ付け加えるのか--。カラーや薄型といったハード的な要素と違って、セールスポイントを一言で表現しにくいからではないかと個人的には思っている。意味合いが広くなったテレビは、それを仕上げるのに重要な「スマート」な人材も、その分だけ必要とされている。

スーパーテレビの裏側に…

 スーパーテレビの発売は、現状では中国に限られた話だ。ネットコンテンツへのアクセスも中国限定である。だが、スーパーテレビに関わる会社は、中国に限らずグローバルに広がっている。ドラマの主人公は楽視網だが、舞台の裏では、複雑かつグローバルな競争や連携が繰り広げられているのだ。

 スーパーテレビの発表会が開催された3週間後の2013年5月27日、シャープ中国は突然、スーパーテレビの開発に「シャープは参加していない」という声明を発表した(ニュースリリース)。スーパーテレビの発表会では、シャープのロゴが使われ、シャープがかなり入り込んでいるとのイメージが確かにあった。表面的には、それを否定するためのものだろう。

 ただ、釈然としないのは、どうしてスーパーテレビの発表から数週間もたっての声明となったのかという点だ。シャープが自社のテレビ販売への影響を考えてのこととか、中国のテレビメーカーから圧力がかかったからではないかといった憶測もある。スーパーテレビの裏側に隠された複雑な駆け引きの一端が顔をのぞかせた格好だ。ちなみに、シャープはスーパーテレビの開発への参加は否定したが、堺工場のパネルのスーパーテレビにおける使用については否定していない。

 今後、スーパーテレビの販売がある程度うまくいけば、既存のテレビメーカーは値下げで対抗すると予想される。また、楽視網の手法を真似て、別名のスーパーテレビも出てくる可能性は高い。さらに、その余波が海外に広がる可能性も否定できない。

 スマホでは、市場への参入のしやすさから低価格なスマホの市場が急速に成長している。Apple社と韓国Samsung Electronics社も低価格なスマホの開発に迫られているという。今後スマホと同じように、安いスマートテレビ市場は急速に拡大するのではないかと予感している。

 スーパーテレビの影響は、中国国内に限らない。グローバルにも広がっている。今後、テレビの開発/製造/販売に関わる業界(以下、テレビ業界)の構図が変わるかもしれない。