イノベーションを創出するため、中国ではいろいろな試みが実施されている。その中で、近年、一つ注目されているのは、「イノベーション工場」である。文字通り、イノベーションが作り出されるという意味で、一時、メディアのホットトピックになった。現在も、それに関する記事がメディアではしばしば取り上げられている。今回は、「イノベーション工場」を通じて、中国におけるイノベーション創出に関する動きや見方を紹介する。

「イノベーション工場」の由来

 2009年9月4日、グーグルのグローバル副総裁で大中華区の総裁、北京に在住していた李開複が、突然グーグルを退社すると発表した。そして数日後、「イノベーション工場」(中国語:創新工場、英語:Innovation Works)という起業支援企業を立ち上げると世の中を驚かせた。

タイトル
李開複の著書。筆者が撮影。

 李開複は、イノベーション工場を立ち上げた後、自伝「世界はあなたがいるから違う」を出版した。自分の成長を語ると同時に、若者に向けて、夢を信じるあなたの存在で世界は変わると、エールを送った。自伝の最初には、「私は自分の多くの夢を既に実現した、これからは中国の若者が夢を実現できるのを助けることが私の願望だ」と、イノベーション工場創立の主旨を記載した。

 李氏は、アップル、マイクロソフト、グーグルなどの要職を歴任し、マイクロソフトでは副総裁まで就任、ビル・ゲイツの7人のブレーンのうちの一人に数えられたという。マイクロソフト中国研究院の創始者でもあった李氏は、頻繁に中国で講演し、大学生には絶大の人気を博した(Tech-On!の関連記事)。李氏の経歴を見てもわかるとおり、中国のIT業界、そしてインターネット業界にとって重要人物である。

 李氏は、立ち上げたイノベーション工場で、中国の若者の起業を支援し、中国のイノベーター、次世代のハイテク企業を育てることを目標としている。インターネット、モバイルインターネット、クラウドコンピューティングの三つの分野においては、毎年20個ぐらいの新しいアイデアによる起業チームを募集し、その中から3~5社の独立運営企業を生み出すとしている。イノベーション工場は、起業を目指す若者に、資金、マーケット調査、人材採用、法務関連、研修などの支援を提供する。見返りとして、成功した企業から一定の割合の利益をもらう。

 李氏のイノベーション工場の趣旨は、レノボの柳伝志会長、鴻海精密工業の郭台銘会長など業界の重鎮から賛同をもらうと同時に、資金面でも支援してもらった。イノベーション工場は順調に立ち上がった。