前回(第5回)は、現在多くの企業が取り組んでいる3D設計改革の効果について整理した。これを受けて、今回は特にモデリングコスト増の問題を中心に、3D設計導入に伴う課題について考察していく。

多品種化が引き起こす3Dモデリングコストの増加

 3D設計は、自動車メーカー、大手電機メーカーを中心に1990年代から導入・推進され、ものづくり改革の主軸として活用されてきた。さらに2000年代に入ると、3D-CADやワークステーションの低価格化と性能向上により、その導入範囲は中堅・中小企業へ急速に拡大していった。中堅・中小企業は、取引先からのニーズに合わせて開発・生産することが多いため、多品種少量生産となる傾向が強い。このことが3D設計の運用に大きな影響を与えるのである。

 3D設計プロセスにおいて3Dモデルを作成するために必要なコストを、ここでは3Dモデリングコストと呼ぶことにする。3D設計導入の裾野が拡大にするにつれて、見えてきた課題がある。それが3Dモデリングコストの増加だ。多品種少量生産化が、3Dモデリングコストに与えるインパクトを確認しよう。

[1]大量生産の場合 次のようなモデルを仮定した。

 ・1製品当たりの生産台数は1万台
 ・3Dモデリング工数は10人月
 ・賃率は5,000円
 ・1カ月は160時間

 この場合の1製品・1台当たりの3Dモデリングコストは、  5,000(円/時間)×10(人月)×160(時間)/1万(台)=800(円/台) である。

[2]多品種少量生産の場合 多品種少量生産の場合、大量生産と比べると1製品当たりの生産台数は少ない。大量生産と比較しやすくするために、こちらのモデルは以下のように仮定した。

 ・1製品当たりの生産台数は100台
 ・3Dモデリング工数は10人月
 ・賃率は5,000円/時間
 ・1カ月は160時間

 こちらの1製品・1台当たりの3Dモデリングコストは、  5,000(円/時間)×10(人月)×160(時間)/100(台)=8万(円/台) である。

 [1]と[2]を比較すると、1製品当たりの3Dモデリングコストは、多品種少量生産の方が100倍も大きいことが分かる。つまり、同じ事業においては、生産数量が少なくなるほど1製品当たりの3Dモデリングコストのインパクトは大きくなる。すなわち設計者の負荷が高くなるということだ。

 3Dモデルを製品開発の上流フェーズから複数部門で共有し、コンカレントエンジニアリングを推進することにより、企業レベルで大きな効果を得ることが可能だ。しかし、上流で発生する3Dモデリングコストは、下流工程のどこかのプロセスで回収しなければならない。大量生産の場合には比較的容易だった3Dモデリングコストの回収も、多品種少量生産においては、より緻密なコスト回収戦略、効果獲得戦略が必要だということになる。

 日本の製造業は、全般的に市場ニーズの多様化、多品種少量生産化、製品ライフサイクルの短期化へ向かっている。その波の中で、3Dモデリングコストをいかに抑制できるか。また、3Dモデリングで発生したコストをいかに回収していくのか。3D設計によるものづくりプロセス改革では、それらを考慮した戦略や仕掛けがいっそう重要になっていくだろう。