ホンダは、本田宗一郎が次第に第一線から遠ざかっていった時期に、宗一郎のDNAを引き継ごうと真剣に考えました。そして「ワイガヤ」や「A00(本質的な目標)」「三現主義」といった独自の仕掛けをつくっていったのです。こうした仕掛けは、天才ではない普通の人がイノベーションを達成するためのものなのです。

 冒頭で少し触れたホンダのイノベーションに関する書籍とは、ホンダの技術者として日本初のエアバッグを開発し、その後同社の経営企画部長を務めた小林三郎氏の著作『ホンダ イノベーションの神髄』(日経BP社発行、価格は税込みで1890円)のことです。同書は、「普通の人がイノベーションを成功するために何をすべきか」が大きなテーマとなっています。「(抽象的である)情熱や想いをいかにしてイノベーションの成功につなげるか」「顧客に感動してもらう製品を造るには何すればよいか」などをホンダでの実例を通じて実践的に紹介しています。

 ホンダの技術開発に立ち会うような臨場感があります。自分の意見をはっきりさせないで上司に頼ると「俺が死ねといったなら、おまえは死ぬのか」と叱咤され、落ち込んだ時には「キミには500億円の価値がある」と持ち上げられる。そして、「ああ、2階に上げられて、はしごを外された」とぼう然とたたずむ技術者がいる。こうした熱気と混乱の中で、「ワイガヤ」や「三現主義」「絶対価値」といった仕掛けが、開発プロジェクトの最前線でどう作用し、いかにしてイノベーションを加速させているかを徹底的に追求し、ホンダのイノベーションの神髄を明らかにしていきます。

 発売は2012年7月30日。是非ご覧いただければと思います。