SSD(solid state drive)は、HDDに比べて高速・低消費電力で衝撃にも強く、ノート・パソコンをはじめ多くの機器に搭載されています。最近ではDRAMキャッシュの代わりに不揮発性RAMの一種であるMRAM(磁気メモリ)を搭載したSSDが登場し、注目を集めています(関連記事)。

 MRAMを搭載するメリットとは何なのでしょうか。一つは電源の遮断(電断)時における信頼性を高められることです。DRAMキャッシュにはSSDの管理データなど重要なデータが記憶されており、電断によってそれらが消失すると、最悪の場合SSDがホストから認識されなくなることがあるそうです。

 民生用のパソコンなどでは、例えばコンセントを引き抜いても電源が徐々に消失するため、深刻な問題は起きないとされていますが、産業機器向けの厳しい電断テストでは、SSDが壊れることもあるようです。このため、産業機器向けのSSDでは電源が切れてもDRAMキャッシュの情報を数秒間保持できるスーパーキャパシタが搭載されています。MRAMを用いれば、DRAMとスーパーキャパシタを置き換えられます。

 ただし、それだけなら別にMRAMを使うほどのことでもないでしょう。MRAMを使うことの最大の利点は、システムの動作状況に応じてMRAMの電源を瞬時にオン/オフできることです。いわゆるパワー・ゲーティングによって、SSD全体の消費電力を20~50%削減できるとの指摘があります。これによって、機器の電池寿命をさらに伸ばすことが可能になると考えられます。

 問題はMRAMのコストが現状では高いことです。今のところ、MRAMキャッシュ搭載SSDは、高い信頼性が求められる産業機器向けの市場を主な対象としています。しかし、2012年末にも登場するといわれているスピン注入型のMRAM(STT-MRAM)を用いれば、高集積化・低コスト化が可能となり、民生機器向けの安価なSSDにも利用されるのではないかとの見方があります。首尾よくいけば、2013年の後半くらいに民生機器向けのMRAMキャッシュSSDが登場するかもしれません。

 さらに将来的には、より微細化・低コスト化に向くReRAM(抵抗変化型メモリ)によってNANDフラッシュ・メモリの一部を置き換えたSSDが登場する可能性があります(関連記事)。ReRAMはNANDフラッシュ・メモリに比べて書き込み速度が1万倍も高速なほか、書き込みエネルギーも1/300とされていますので、SSDの大幅な性能向上や低消費電力化が期待されます。今後、SSDがどのように進化していくのか、目が離せません。

 なお、日経エレクトロニクスでは2012年8月6日号において、新型不揮発性メモリを取り込んで進化するSSDの動向に関する解説記事を掲載する予定です。ご興味がありましたら、ご一読いただけますと幸いです。