日本は大型パネルの生産量で既に韓国・台湾に大きく水をあけられており、税制、為替、オペレーション・コストなど様々なハンデを負いながらの競争では勝算を見込めない状況にある。現在、モバイル機器向けの中小型パネルに活路を見いだそうとしているが、既に生産量では韓国や台湾と同等であり、かろうじて付加価値の高いパネルで利益を出している。

 今考えるべきことは、「醜い姿になってしまったスマイルカーブのまま、今後も競争を続けるのか」ということである。日本が作った産業構造を一度リセットして、新たな産業の付加価値を作り上げる努力をしなければ、中小型パネルでも同じ悲劇が繰り返されることになる。産業の進化に合わせたビジネス・モデルの再構築が必要である。

投資から技術へ、視点を変えよう

 「大型化の時代」には、積極的な投資による市場拡大が最も有効な戦略だった。この時代の勝者は、現在の市場を二分している韓国と台湾である。残念ながら日本はこの競争から脱落した。しかし、勝者となった韓国と台湾も、現在は苦しい状況にある。この理由には、行き過ぎた価格競争や世界経済の影響もある。ただ、「時代が変わりつつある」ということをしっかり認識すべきである。すなわち、大型化から多様化の時代に移行しつつある現状にうまく乗り換えなければ、大型化の時代の勝者も脱落していく。日本も、これまでの「投資信仰」から脱して、技術で産業を牽引していく道を探るべきである。多様化の時代には、様々なアイデアと技術力、製品力がものを言うようになっていく。

 筆者は、毎年米国で開催されるディスプレイの国際会議「Society for Information Display(SID)」に参加している。SIDは、ディスプレイ技術の研究開発に携わる世界の第一線の技術者が集まる場であり、アジアからも多くの人々が集まる。そこでいつも話題になるのが、「既にディスプレイ産業が廃れてしまった米国になぜこれほど多くの研究者、技術者が詣でてくるのだろうか?」という疑問である。その答えは色々あると思うが、一つのポイントは「情熱」だろう。過去、米国には液晶ディスプレイの基礎原理を発明した米RCA社David Sarnoff研究所のGeorge Heilmeier氏とDick Williams氏をはじめ多くの開拓者達がいた(関連記事『液晶ディスプレイ誕生秘話――液晶ディスプレイ事業創出の基礎を築き上げた"開拓者"の熱意に迫る』)。その後、シャープをはじめとした日本の多くの企業の努力で、液晶ディスプレイの実用化が日本で進み、米国企業は産業化の競争から脱落していった。しかし、米国では今でも、液晶に替わる新たなFPDの開発や実用化に向けてベンチャー企業が活発に活動している。FPDに対するこの情熱が、多くのアジアの技術者達を今でも米国に駆り立てている。

時代の変化をつかむ者が勝者になる

 今、この時代の変化を感じて動き出しているのが、日本・韓国・台湾ではなく、実は中国である。中国は、国の大方針である「第12次5カ年計画」で、輸出型から内需型に舵を切りつつある。同時に、これまでの積極投資と産業拡大の政策のために目をつぶってきた効率の悪い企業(実質的な倒産企業)の淘汰・再編に乗り出している。企業の体質を改善し国際競争力を付けながら、産業・技術の育成方法を従来の「海外のキャッチアップ」から「自主的な開発」に転換、自ら産業を牽引していけるように政策変更することを目指している。

 前回、「中国ではFPD産業は成熟しない」と書いたが、この中国の改革が順調に進めば、日韓台を脅かす存在になるだろう。改革には時間を要するうえに、実質的にどこまで改革ができるかという課題はあるものの、日本を含めた周辺国・地域にとっては見逃せない。日本自身も、現在のFPD産業の変曲点において、明確な将来像を描き直さないと、生き残りは難しい。