前回から続く)

 FPD産業は、2010年を境に大きく変わった。1990年代のパソコン用ディスプレイの実用化から2000年代の大画面FPDテレビの普及に至るまで、FPD産業は画面サイズの大型化競争に明け暮れていたが、これが一段落した。第10世代まで進んだ液晶パネル工場のガラス基板の大型化もほぼ収束した。

 2010年以降、FPD業界の関心はモバイル製品に移りつつあり、FPD産業も変化している。この変化を一言で表現すると「大型化から多様化へ」ということになる。これから広がるモバイルの世界だけではなく、人々の生活空間のあらゆる場所で使われるようになるFPDの姿は、どんどん多様化していくだろう(図)。製品と共に技術も多様化へ向かっている。これは世界のFPD産業全体の流れであり、中国も例外ではない。

図 多様化するFPDの世界
出典:北原 洋明、寺内 健一、「持続的成長で50年産業を目指すFPDのロードマップ」、『ディスプレイ技術年鑑2011』
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節目ごとに起こった業界再編劇

 FPD業界の関心が大画面テレビからモバイル製品に移り、それに呼応するかのように業界再編が動き出した。特に、日本企業の動きが話題になっている。シャープと台湾Hon Hai Precision Industry社(鴻海精密工業,通称Foxconn)の提携、およびジャパンディスプレイの発足である。いずれも企業存続のためのアライアンスだが、その方向は正反対である。シャープは海外企業とのアライアンスへ動いた。一方、国内企業だけで事業統合し競争力を回復しようと東芝、ソニー、日立が動いた結果、ジャパンディスプレイが発足した。ここでどちらが良いかという議論をするつもりはないが、一つ言えることは、多様化していく世界市場と製造環境の中で迅速に対応していくための戦略が重要になる。

 FPD業界では、過去に何度も再編劇があった。2000年代前半には、パソコン用ディスプレイ市場を見据えた日本企業と台湾企業が数々のアライアンスを結んだ。2008年には、大画面FPDテレビ市場を見据えてソニーと韓国Samsung Electronics社が提携し、これに端を発した日本企業同士の再編もあった。そして、モバイル機器市場を見据えた業界再編が、まさに現在進行中の状況である。今回Hon Hai社がシャープと提携した背景には、第10世代の堺工場で生産される大画面テレビ用ディスプレイへの関心もあるが、シャープの中小型パネル技術にHon Hai社が強い関心を持っていることも事実である。