中国でFPD産業は成熟しない――投資ではなく技術が産業発展の主役

 最近の中国の発展は目覚ましく、例えば大都市のあちこちに建つショッピング・モールなどには日本で見る以上に立派な外観と洒落た店舗が多く入っている。しかし、個々の商品やサービスなどでは、まだ日本が進んでいると感じる。一点一点の商品の中に積み上げてきた品質や店舗経営のノウハウは、立派な建物とは全くの別物であり、これこそが消費者に対する最大のサービスになる。同様のことがFPD生産ラインにも言える。

 地方政府による活発な誘致合戦で巨大な投資が行われ、多くの「最新鋭工場」が建設されてきた。その生産品目は、主にパソコン用パネルだった。最近はテレビ用パネルの生産も開始したが、スムースには立ち上がっていない。テレビ用の大型パネルでは、広視野角技術などに対応する高度な設計技術とプロセス技術が必要となる。生産ラインの工程能力の実力値を見極めながら、歩留まりを落とさずに限界設計をしていける能力を持ったエンジニアがいないと、単純に他社製パネルを解析してデザインを真似しただけでは良品は出てこない。

 日本で液晶パネル生産ラインが立ち上がり、優れた液晶パネルが製品化されてきた背景には、開発成果を生産に移行させるノウハウがあった。単純に良い技術を開発できても、そのまま生産には使えない。製造技術としてチューニングするノウハウが重要であり、このノウハウの真髄は必ずしも製造装置には移植されていない。エンジニアの経験がものを言う世界がまだ残っている。

 中国の多くの企業やエンジニアの中には、「製造装置や材料を海外から買ってくれば、先端的な製品も簡単に製造できる」と思っている人が多い。しかし、問題は、「製造装置には移植されていないノウハウを、どうやって自分たちのものにしていくか」ということである。そのために、過去、日本のエンジニアは寝食を忘れて新製品の開発と生産ラインの立ち上げをしてきた。残念ながら、今までのところ、このような努力をする中国人エンジニアに出会ったことがない。30年近く前に中国へ行った際に出会った当時の国営企業で働く従業員達の勤務態度と比べれば、現在の中国企業の従業員の仕事に取り組む姿勢ははるかに改善されている。しかし、ハイテク産業を立ち上げるためには、まだ十分な熱意を持っているようには感じられない。

多様化の時代への夢を持ち、FPD産業の再構築を

 産業発展のために最も重要なことは、開発にかける「夢」である。産業の黎明期に日本のエンジニア達は、「壁掛け平面ディスプレイ」の実現を目指して技術開発や製品開発に打ち込んできた。そして現在、FPDは壁掛けテレビの世界を越えて新たな世界に入っていこうとしている。この新たな時代を実現するためには、新しい「夢」とそれを実現する「情熱」が必要である。過去、この2つを持って、FPD産業を立ち上げた日本には、再びその役目を果たす責務がある。

【次回】日本はFPD産業のリーダー役を担うべき