「求められる“キー・デバイス”幻想からの脱却」――。

 日経エレクトロニクス2012年4月30日号に掲載した解説記事「テレビ不況の電機3社、どう立ち上がるか」に、こうした副題を付けました。国内の電機メーカーの多くが掲げてきた「強い部品で機器を強くする」というキー・デバイス戦略が、多くのデジタル民生機器で立ち行かなくなったと考えたからです。

 ディスプレイやシステムLSI、DRAMやフラッシュ・メモリ…。これらは機器のコストの多くを占める重要部品ですが、機器の差異化に直結することはほとんどなくなりました。部品としての大きな違いを出すことが難しいほど技術が成熟したからです。かつ、設備集約型の部品であるため、量産規模の大小によるコスト競争力で勝敗が決まりがちです。自社の機器を強くすることを目的にこうした性格の部品の事業を持っていることが、大きなリスクとなってしまいました。

 その表れが、シャープが下した決断です。堺の大型液晶パネル工場を台湾Hon Hai Precision Industry社との共同運営に切り替えるシャープは、テレビ事業におけるキー・デバイス戦略からの転換を図ろうとしています。電機メーカーのシステムLSI事業の再編がしばしば取りざたされるのも、根は同じでしょう。

 「歴史を振り返ると、世界での年間販売台数が1億を超えるほど成熟した機器の市場で国内の電機メーカーが支配的になったことはほとんどない」。電機業界のアナリストであるフィノウェイブ インベストメンツ 代表取締役社長 CIO(最高投資責任者)の若林秀樹氏は、こう指摘します。出荷台数が少ない立ち上がりの時期こそ果実を得てきたものの、主要部品の技術が成熟して量産規模の競争に陥ると、部品を内製しているリスクが重くのしかかってくるという構図が繰り返されてきたという分析です。

 デジタル化によって、技術が成熟するスピードがますます速くなっています。現時点で「液晶パネルやメモリとは違う。技術で差異化できる」と思っている部品が、あっという間に規模の勝負に巻き込まれてしまうことは、想像に難くありません。今回の解説記事では、そのときに向けて電機メーカーがどう備えるべきかをまとめてみました。ご一読いただければ幸いです。