雑誌などの見出しで、ポイントや原則をまとめるとき、「3つのポイント」とか「5原則」「7つの秘訣」といった具合に、なぜか奇数であることが多いです。実際、多くの編集者に、ポイントや原則を奇数にまとめる習性があることは間違いないと思います。もちろん、内容が優先なので偶数の場合もありますが、かなりの勢いで奇数の方が好まれます。何となく切りがよく、据わりもよいと感じるからでしょうか。

 ところが、これは奇数だからではなく、素数だからだという説を見つけました。数学者の足立恒雄氏が書かれた「√2の不思議」(ちくま学芸文庫)の中に紹介されています。同書は、数学の真の意義を知るという観点から、「0」「√2」の数学史の中の位置付けや意味、法則や論理の発展などの内容を分かりやすく解説し、数学と哲学の関係や数学の限界にまで言及するという広範なテーマを扱っています。その中にこう紹介されています。

「社是でも公約でも、何でもいくつかの原則を述べるとき『五箇条のご誓文』のように項目数が素数になっている場合が圧倒的である。六条とすると三つのさらに基本的な項目があるはずだと人は感じるものらしい。宣伝文作りを仕事とするプロに頼めば必ず素数項目にするところを見れば、いまや項目数は素数にするというのは意識的に行われているようである。それだけ自然数が素数を元としてできているということを無意識にせよ知っており、したがって数を作る元素としての素数を貴重なものと見ているということである」。確かに奇数であっても、素数ではない9原則とはあまり言いません。

 もっとも、素数という概念は古代ギリシャで生まれたもので、漢字文化圏には存在しなかったそうです。しかし、七五三、七回忌、十三回忌など素数で表現されている例がかなりあることから、素数という概念はなかったにしろ物事の基本となる数とみなされていたらしいのです。

 聖徳太子がつくった憲法十七条で条項の数が17なのは、17が素数であること関係しているのでしょうか。ふと、そんなことも考えてしまいます。ちなみに、『日経ものづくり』で多くの読者に好評だった連載「ホンダイノベーション魂!」では、イノベーションを成功に導くポイントを毎回3つ、筆者の小林三郎・中央大学客員教授(ホンダ元・経営企画部長)に挙げていただいていました(Tech-On!関連記事)。

 例えば、
・イノベーションは効率化できないが、成功の確率は高められる。
・イノベーションの目的は顧客の絶対価値を実現すること。
・絶対価値は、「差」ではなく「違い」を生む。

――などです。この連載は、2012年3月号で終了しましたが、毎回3つのポイントを紹介するというスタイルは、現在日経ものづくりで関伸一・関ものづくり研究所代表に連載していただいている「デジタルセル生産のススメ」に引き継がれています。やはり3つだと据わりがいいです。さて、その理由は奇数だからでしょうか、それとも素数だからでしょうか。