写真:栗原 克己
写真:栗原 克己

 まだどこにもない技術の開発、すなわちイノベーションに挑戦することはワクワクする---。しかし、筆者の経験からすると、そんなに単純なものではない。

 筆者は、2005年にホンダを退職するまで経営企画部長を務めたが、もともとは技術者だ。16年の研究開発の末、日本初となるエアバッグシステムの量産・市販に成功した。その後、助手席側のエアバッグシステムも世に送り出した。技術者としてのキャリアの大半をエアバッグの開発・量産化・市販に充て、その後はホンダの経営と身近に接してきた。その間にイノベーションについて真剣に考え続けた。理想化する気は毛頭ないが、ホンダにはイノベーションを成功に導く企業文化や仕掛けがあると考えている。本稿では、イノベーションの成功を引き寄せるための考え方やアプローチを紹介していきたい。

小林三郎(こばやし・さぶろう)
中央大学 大学院 戦略経営研究科 客員教授
こばやし・さぶろう 1945年生まれ。1968年に早稲田大学理工学部卒業。1970年、米University of California、 Berkeley工学部修士課程修了。1971年に本田技術研究所に入社。1987年に日本初のSRSエアバッグの量産/市販に成功。2000年にはホンダの経営企画部長に就任。2005年12月に退職後、2006年3月に一橋大学大学院国際企業戦略研究科客員教授に就任。2010年4月から中央大学 大学院 戦略経営研究科 客員教授。本連載の基になった書籍『ホンダ イノベーションの神髄』(日経BP社)を2012年7月に発行。