ソニーが開発した裏面照射型CMOSセンサの新技術と同じような3次元積層技術は、今後競合他社でも開発が広がりそうな気配です。いずれ、一眼レフ・カメラ並みの処理機能を備えたスマートフォンを舞台に、これまでカメラ開発に縁のなかった人材を含めた多くの開発者による「よってたかって」のカメラの再定義が始まる。その呼び水になるのではと妄想が広がります。スマートフォン分野には今、それだけの開発パワーをあっという間に集める勢いがあるからです。

 もう数年前になりますが、『日経ビズテック』というメディアで「勝手に考えるソニー再生計画」という特集記事に携わったことがあります。ちょうど、今と同じようにソニーの業績が下向きになり、経営陣の交代時期でした。国内外の十数人の著名人や同社のOBに、勝手に再生計画を考えてもらうという内容です(関連コラムの記事「みんなでソニーを考えよう」はこちら)。

 ほぼ全員から全く異なる内容の提案が出るという結果に、世の中が抱くソニーという会社への愛や、同社の事業の奥深さを感じたわけですが、その中で自分が編集を担当した、元アスキー 社長の西和彦氏の寄稿論文にあった言葉が心に残っています。

 西氏は論文中で「ソニーは金融事業を核にした新しい娯楽分野を立ち上げるべき」と提案しました(「エンタメの王様復活は『第四の娯楽』の確立から」,『日経ビズテック No.007』,pp.28-35)。そこで印象深かったのは「ソニーは遊びの会社である」という定義。ソニー神話が生れたのは、生活必需品ではなく、嗜好性が高い娯楽分野で「背徳の香り」をスパイスに新しい提案を続けてきたからだと。

「遊びの会社」に問われる真価

 「勝手にトランジスタ製造の技術ライセンスを結んだことに、通商産業省がつむじを曲げた」という逸話が残る「トランジスタ・ラジオ」に始まり、同社が生み出した「ウォークマン」や、VHSと争ったベータ方式の「家庭用VTR」などは、背徳を感じさせたからこそ、一分野を築いたというわけです。

 「歩きながらヘッドホンで音楽を聴く若者の姿は、当時の大人たちから見れば、奇異であり、眉をひそめる対象だったことは疑いない。(中略)家庭用VTRでは、家庭での複製による収入源を恐れた米国の大手映画会社に訴えられた」と、西氏は書いています。「最初は『背徳』でも、ヒットして普及するにつれて『常識』に変化していく」と。

 「常識はずれ」や「バカバカしい」ことが、ソニー神話を生んだと西氏は指摘しました。米Apple社のSteve Jobs氏が「Stay hungry,stay foolish」と語るより、だいぶ前のことです。

 今回、ソニーが開発したCMOSセンサの新技術は、この「常識はずれ」や「バカバカしさ」のタネになるような、そんなイメージを会見中に抱きました。取材で話を聞いた印象では、開発した技術陣も、そのことを意識しているように感じられたことも事実。だから、「面白いなぁ」と思ったわけです。

 ただ、本当に一眼レフ・カメラ並みの処理能力を備えたスマートフォンが登場したら、カメラ業界にとっては大きな脅威でしょう。カメラ事業とスマートフォン事業を抱えるソニーが、業界と社内の呪縛を解き放って「やんちゃ」を仕掛けられるか。あるいは、自ら「背徳の香り」を備えた製品を世に問えるか。「遊びの会社」としての真価が問われることになると密かに思っています。