2012年1月号の特集「工場飛び出すロボット技術」を担当したからというわけではないのですが、2011年末、我が家で掃除ロボットを導入しました。円盤型で、床の上を自走しながらゴミを吸い取るというロボットが登場して約10年。今では日本メーカーの参入も増え、機能的な改良もどんどん進んでいます。使用レポートなどもかなり出回っているとは思いますが、ここでは私なりに「使い勝手」について感じたことを書いてみたいと思います。

 1月号の特集では、工場で使われる産業用ロボットではなく、医療や介護、農業、さらには家庭やオフィス、災害現場といった新しい領域で使われるロボットを取り上げ、そこで求められる技術について解説しました。その取材の中でポイントの1つとなったのが「人との共存」です。これは、安全性という意味だけでなく、ユーザーとロボット間でのコミュニケーションという意味も含みます。

 例えば、日本精工の盲導犬ロボットでは、ユーザーである目が不自由な人を先導するために、ユーザーが進みたい方向をロボットに伝え、逆に、ロボットが障害物などを避ける動きをユーザーに伝えるといったことを、いかに確実かつ手軽に実現できるかが開発のポイントとなりました。トヨタ自動車が開発した移乗介助ロボットでは、介護者の負荷を軽減させるだけでなく、要介護者に苦痛を与えないことにも注力しています。

 さて、我が家にやってきた掃除ロボット。ユーザーはまもなく喜寿を迎える私の母です。母は携帯電話機のメール機能どころか留守番電話機能でさえ使えない(使う気がない)ほどの人ですが、同年代の友人たちから「掃除ロボットは便利でいいわよ~」と聞いて、興味をそそられた様子。そこで、子ども一同からということで母に掃除ロボットをプレゼントしたのです。

ロボットの動きを指示したい

 友人から噂は聞いていたものの、機能や形状についての具体的なイメージを持っていなかったようで、とにかく1度、目の前で動かしてみることにしました。掃除ロボットが本当に掃除しているのか、その動きを自分の目で確認したいという気持ちもあったのでしょう。私自身も掃除ロボットを使うのは初めてだったので、2人でしばらく掃除ロボットの動きを観察しました。

 障害物やゴミの量をセンサで把握しながら動き回るロボットの経路は、ある程度の時間をかければ部屋の中を網羅するのでしょうが、母はなかなか行こうとしない方向を指して「こっちこっち」とか自分に近づいてくると「こら、邪魔だよ」と話しかけます。揚げ句の果てには、掃除ロボットが通過しそうなところに小さなごみを置いて、それをきちんと吸い込むかを見ようとします。「ペットに餌をやるんじゃないんだから」と心の中で突っ込みながらも、母が求める掃除ロボットの機能について考えてみました。

 掃除ロボットの既存ユーザーの話などを聞くと、留守中に動かして掃除をしてもらうような使い方がメインのようです。確かに、部屋の中に人がいれば邪魔ですし、ロボットを踏んづけてしまうかもしれません。時間の有効利用という点でも、その使い方は納得です。

 しかし、母はその使い方を想定していません。どうも不在中に部屋の中を勝手に動き回られるのは不安で嫌なようです。つまり、最初に動かしたように掃除ロボットと同じ部屋の中にいつつ、掃除をしてもらいたい。しかも、動きを自分である程度は指示したいというニーズがあるのです。実際、最後には掃除ロボットを持ち上げて移動していましたから…。

 そう考えると、音声認識で動きを決められる機能があったらよいのにと思ってしまいます。例えば、「あっち」や「そっち」といったユーザーの声を認識したら、「こちらでしょうか?」と音声案内しながら、少しずつ角度を変えた往復運動をその場で開始して、「Go!」という言葉を発したときの方向に進み始めるといった感じでしょうか。

 まあ、使い始めたばかりなので慣れてくれば、掃除ロボットの自律的な動きだけで満足するかもしれませんが…。ただ、高齢者による利用を考えた場合に必要な機能は、ゴミの量や部屋の形などから自律的に移動ルートを決めて部屋中を漏れなく掃除するという機能だけではないんだな、と思った次第です。

タッチパネル上の指の位置

 実は、母だけにプレゼントでは父がすねてしまうので、同じ時期に父には「iPad2」をプレゼントしました。母と同じく携帯電話のパケット通信機能はオフにしている父ですが、「○○へ行く地図を出してくれ」「○○駅に×時に着くには、どうすればいい」などとパソコンでの調べものを依頼することは多く、テレビなどでスマートフォンやタブレット端末などの紹介番組を見た際には「使ってみたい」というようなことを言っていたからです。

 メールやWebサイトの見方を教えるとともに、最初にあるアプリをダウンロードしておきました。それは、父の最大の趣味である囲碁のアプリです。近所の人と対局することもあるのですが、まあ、iPadに慣れてもらうためにも趣味のアプリを使ってもらうのがいいと考えただわけです。

 碁盤の上を指で触れば碁石を置けるというユーザー・インタフェースなので、とても簡単かと思いきや落とし穴が…。高齢な父にとって、iPadの画面上に縮小表示された碁盤の目を正確に指で触れるのは簡単ではありません。意図しないところで反応してしまい、「何だこれは!」とご立腹です。

 まあ、碁石を置き直す機能もあるのですが、これはいわゆる「待った!」の機能ですから、相手が次に指す手を見てからの行動になってしまいます。勝負としては、ちょっと興ざめになるのでしょう。指で触っている位置を線で示して、指を離した瞬間の場所が認識されるモードもあるのですが、それでもあまりうまくいきません。「そのうち慣れるよ」とは言ってみたものの、興味半減といった父の様子でした。

 さて、この場合についてもどんな機能なら父がストレスを感じないんだろうかと考えてみました。例えば、位置を認識したら仮置きした碁石を表示して、「OK」「NG」のボタンで確定させたり、やり直したりできるようにしてはどうでしょうか。1手間増えますが、置き間違いによるストレスは解決できそうです。

 タッチパネルは直感的な操作でとても有用だとは思うのですが、指先の位置決めに不安がある高齢者などにとっては、不便な部分もあるんだなと気が付かされました。