雑誌 2012年1月号 特集

工場飛び出すロボット技術

介護、医療、農業…で大きく育つ

2011/12/21 10:10
 

 少子高齢化は大きなビジネスチャンスだ。製造業以外の産業でも合理化のニーズはある──。
 ロボットといえば、これまでは工場の生産現場で使われる産業用ロボットが中心的な存在だったが、介護、医療、農業、生活支援、オフィス支援、災害支援といった新たな領域を対象としたロボット(新領域ロボット)の研究開発が盛んになっている。しかも、特筆すべきは、従来のロボットメーカーだけでなく、自動車メーカーや電機メーカー、部品メーカーなど、さまざまな業種の企業がそうした研究開発に挑んでいることだ。
 新領域ロボットの実現には、これまでの産業用ロボットで培ってきたものだけではなく、それとは異なる技術も求められる。例えば、身近に存在する人に負荷を与えたり傷付けたりしないようにする技術などだ。この点でこれまでロボットとは縁のなかった技術者にも活躍のチャンスがあるといえそうだ。
 本特集では、新領域ロボットでは実際にどのような技術が求められているのか、ロボットやその要素部品の開発例を通じて見ていく。(富岡恒憲、中山 力)

工場以外で活躍目指すロボットたち
ロボットにはこんな技術が使われている

 工場以外に活躍の場を求めるロボットが続々登場している。

 トヨタ自動車は2011年11月1日、病院や介護の現場で働くロボット4種を発表した。その1週間後には、ホンダが原子力発電プラントなどでバルブの開閉作業に従事するロボットの試作機を公開した。

 この流れは、同月9日にスタートした「2011国際ロボット展」でも見られた。日本精工の盲導犬ロボットに、安川電機の家庭向けサービスロボット、パナソニックの病院内搬送ロボットなどが出展され、ロボットが介護や医療、農業、家庭、オフィス、災害現場といった、産業用途以外のさまざまな領域に進出し始めたことを強く印象付けた。
〔以下、日経ものづくり2012年1月号に掲載〕

日本精工●盲導犬ロボット

先導される人のストレスを減らす

 盲導犬のように目の不自由な人を先導できるロボットを研究開発しているのが、日本精工である。九州盲導犬協会によれば、「盲導犬の希望者は約7800人」。しかし、実際に貸与されている盲導犬の数は、2010年度末で1067頭。需要に対して供給が大幅に下回っている。盲導犬の役割をロボットで代替できれば、この状況を改善できる可能性がある。

 目の不自由な人を目的地まで安全に先導すること──。これが、盲導犬の大きな役割の1つだ。そのために盲導犬は、(1)目の不自由な人が指示した方向にきちんと誘導する、(2)障害物をよける、(3)段差や階段を知らせる、(4)曲がり角や交差点を教える、といった能力を備えている。

 日本精工は、こうした能力を持つ盲導犬ロボットを2020年までに開発したい考えだ。そして、その途中の2016年までには、屋内環境に限定して利用できる盲導犬ロボットを開発する目標を立てている。
〔以下、日経ものづくり2012年1月号に掲載〕

ホンダ●作業アームロボット

高所でも狭所でも確実な作業を

 高所でのバルブの開け閉めなどが求められる原子力発電プラント。ホンダは、そうした作業を遠隔操作で実施するロボット「作業アームロボット」を試作した(図1)。原発プラントには狭くて入り組んだ場所が多い。高所での作業の場合には、昇降式の台座に載ったりする。そこで作業アームロボットには、狭く入り組んだ場所でも、ぐらぐらした台座の上でも、確実にバルブを開閉できることが求められた。

 「実は、体内LANが入っているんです」。本田技術研究所基礎技術研究センター第5研究室室長で主任研究員の重見聡史氏は、こう切り出した。
〔以下、日経ものづくり2012年1月号に掲載〕

図1●ホンダが試作した「作業アームロボット」と主な要素技術
バルブの開け閉めを遠隔操作によって実施できるロボット。原子力発電プラントなどでの活用を想定している。昇降式の台座のような不安定な場所でもバルブを確実に開閉できるように機能を作り込んだ。アーム先端のハンドの内部にカメラを搭載し、操作者はその映像を見て、目印の白線とハンドルの位置が一致するようにハンドを動かす向きを指示する。その際のアームの姿勢は、台座の揺れや配管などの障害物の位置を考慮してロボット側が算出する。
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安川電機●サービスロボット

ユニット交換で多様なニーズに応える

 家庭の中などで一般の人と一緒に活動し、さまざまな作業を支援することを想定したサービスロボット。安川電機が開発する「SmartPal」は、そのサービスロボットを実用化するための要素技術検証プラットフォームという位置付けのロボットだ。

 同社はSmartPalを開発するに当たって、機能ごとのユニット化という考え方を導入している。アームやハンドなどのユニットを多種類用意し、それらを用途に応じて組み合わせることで、さまざまなサービスロボットを効率的に開発するという考えだ。産業用ロボットと比べて多様なニーズに応えなくてはならないサービスロボットでは、「個々に対応していては事業にならない」(同社技術開発本部開発研究所開発企画グループグループ長の田中信一氏)からだ。

 SmartPalの最新機種は、2011年11月に発表した「SmartPalVII」である(図2)。安川電機はユニット化を念頭に、それを構成するアクチュエータなどのコンポーネントの技術開発を進める。SmartPalVIIは、「全てのコンポ―ネントを組み合わせたフラッグシップモデルという位置付け」(田中氏)だ。
〔以下、日経ものづくり2012年1月号に掲載〕

図2●「SmartPalVII」の構成
アームユニットなどを小型化するために、それを構成するアクチュエータなどのコンポーネントの技術開発を進める。
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パナソニック●病院内搬送ロボット

人や障害物の多い場所で安全に自律走行

 病院などの医療機関では、少子高齢化の進展によってスタッフや看護師の忙しさが増す傾向にある。その上、総医療費の削減などから経営合理化が求められている。その影響で、できることなら単純作業は自動化して、スタッフや看護師には本来の業務に専念してもらいたいと考える医療機関が増えてきている。

 パナソニックはこれをビジネスチャンスと捉え、病院を対象としたさまざまなロボットを研究開発している。その中の1つが、病院内自律搬送ロボット「HOSPI」(図3)である。薬をはじめ、血液のような検体や医療器具類、書類などをスタッフや看護師に代わって自律的に搬送する。
〔以下、日経ものづくり2012年1月号に掲載〕

図3●病院内自律搬送ロボット「HOSPI」に盛り込まれた主な技術
背面の収納部に薬や検体を収めた上で、タッチパネル式モニターで行き先を指定すると、自らが走行経路を考え、自律的にそこに向かう。それを可能としているのが、これらの技術である。
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トヨタ自動車●移乗介助ロボット

動きや部材の工夫で苦痛を与えない

 「医療・介護の現場で、現在最も介護者に負荷がかかっている作業の1つが、要介護者をベッドから起こして車椅子に載せ、トイレや検査に連れていく移乗の作業」(トヨタ自動車パートナーロボット部理事の?木宗谷氏)だ。要介護者が用を足すのに、オムツで済ませずにトイレに行きたいと思うのは人として当然のことである。

 ベッドから車椅子に移乗させるにはまず、要介護者をベッドの縁に座らせる。要介護者の首を自分の肩に載せながら腕を背中に回し、要介護者が自分にもたれかかるような体勢にしてベッドから持ち上げて車椅子に移乗させる。車椅子からトイレの便座に移す場合も同様だ。オムツを付けている場合には、移乗の途中でもう1人の介護者にオムツを外してもらう必要がある。

 こうした移乗は、介護者の腰痛の原因にもなっている非常に負荷の大きい作業で、例えば「オーストラリアでは法規制により要介護者を1人で移乗させてはいけないことになっている」(同氏)ほどだ。

 移乗作業の負荷を軽減することを目的にトヨタ自動車が藤田保健衛生大学と共同で開発したのが、介護者の代わりに要介護者の身体を支えながらベッドやトイレの便座に座った要介護者の尻を持ち上げるロボット「移乗ケアアシスト」だ(図4)。取り外し可能な座面や電動パワーアシスト付きの台車の機能を備え、要介護者の尻を持ち上げた状態でベッドやトイレから離れ、座面をセットして座らせれば車椅子代わりになる。介護者がハンドルを介して移乗ケアアシストを押すと、その力を検出して車輪による走行をモータでアシストする。
〔以下、日経ものづくり2012年1月号に掲載〕

図4●トヨタ自動車が開発した「移乗ケアアシスト」と主な要素技術
要介護者をトイレや検査に連れていく際の車椅子への移乗や車椅子からトイレの便座への移乗などを支援する。要介護者を胸パッドや腕載せにもたれかからせるようにして、ベッドやトイレの便座から尻を持ち上げさせることができる。逆に移乗ケアアシストに乗ってきた要介護者をベッドやトイレの便座に座らせることもできる。要介護者に苦痛を与えることがないように、要介護者の保持・上げ下ろし機構と保持具(パッド)、および同機構を動かす3つのモータを同時制御する技術(多軸同時制御技術)を盛り込んだ。
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農研機構/シブヤ精機●イチゴ収穫ロボット

果実の熟し具合や位置を正確に見極める

 食糧自給率の向上という目標と、農業従事者の高齢化や減少という現実との乖離。この状況を打破するためには、農作業の省力化が不可欠とされている。ここに、農業ロボットの活躍の場があるのだ。

 例えば、農業・食品産業技術総合研究機構の生物系特定産業技術研究支援センター(以下、生研センター)とシブヤ精機(本社松山市)が共同で開発した、イチゴを自動的に収穫するロボット(図5)。「イチゴの栽培・収穫に要する作業時間は、栽培面積10a(1000m2)当たりで年間約2000時間。これは、米作りの約70倍」(生研センター基礎技術研究部長でロボットチーム長の西村洋氏)と非常に手間がかかる作物だ。中でも、収穫作業は2000時間のうちの500時間と1/4を占め、イチゴ農家における省力化に対するニーズは非常に高い。
〔以下、日経ものづくり2012年1月号に掲載〕

図5●イチゴ収穫ロボット
イチゴを栽培する栽培ベッドは高い位置にあり、そこから垂れ下がった茎の先端にイチゴの実が成る。栽培ベッドと平行に設けた2本のレールの上を移動しながら、熟したイチゴを見つけ出して収穫していく。ロボット本体の大きさは長さ1.7×幅0.6×高さ1.9m。、写真の状態では、左側の栽培棚が収穫対象となっている。なお、写真は昼間に撮影したものだが、実際にイチゴ収穫ロボットが動作するのは夜間である。

部品編:独創的な技術で新領域に挑む

 ロボット編で紹介した事例のように、ロボットの用途に応じて求められる技術は多岐にわたる。特定の用途を念頭に置きながらロボットを開発し、それをブレークダウンしながら必要な要素技術を開発していくことは、ある程度の規模の企業でなければ難しい。

 しかし、ロボット全体を開発しなくても、ロボットを構成する一部の部品や要素技術を提供することで、ロボットに関わっていくことは可能だ。ロボット向けに開発した技術を、他の分野にも生かせる。ここでは、アクチュエータの削減/小型化と人の負荷/違和感の軽減という2つの課題について、それらを解決する技術に注目した。
〔以下、日経ものづくり2012年1月号に掲載〕

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