以前もこのコラムで紹介したが、最近は「なぜ人は閃くのか?」にとにかく興味が沸いている。あれこれ考えてみてもいるのだが、ここはやはり専門家にいろいろ尋ねたい。ということで、玉川大学脳科学研究所の岡田浩之教授に脳科学の世界では閃きをどう捉えるのか、取材させていただいた。

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玉川大学脳科学研究所教授の岡田浩之氏

「脳はわからないことだらけで知れば知るほどわからないことが出てくるんです。遠い将来まで未知の研究テーマだと思いますね。だからずーっと研究していられるわけですが・・・」と脳とは○○であると断言してしまうテレビタレントみたいな脳科学者とは違い、学者らしい学者な人だという印象を受けた。

 まずは“閃き”とは何かを脳科学ではどうとらえるのか聞いてみた。

「赤ちゃんは始めて見たものに興味を示します。そしてすぐに飽きる。飽きるからまたすぐ新しいものに興味を示せる。その繰り返しをしているんです。要するに赤ちゃんは常に閃いているんです」。

 赤ちゃんの脳は調べれば調べるほど大人よりすごいと驚くべき神秘が次々に発見されているのだそうだ。言語の吸収能力でいうと、例えば、日本人の赤ちゃんでもLとRの子音の違いがわかるが、大人になるとできなくなってしまうのもその一例とのこと。

 なるほど我が輩が英会話にいくら通ってもいっこうにヒヤリングができるようにならないわけだ。ましてさらに子音の発音が多い中国語を学ぼうなんてことはいまさら無理だと都合のいいいいわけができた。

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赤ちゃんに対する実験の様子

「赤ちゃんは好奇心というか雰囲気を読む能力が極めてすごい。大人の何倍も空気を読んでいるんです。あんな小さい体で自分の持てる機能すべてを使って、周りのすべてに対して敏感なアンテナを張り巡らしているんです。ノベルティ・プレファレンス(Novelty preference)といって“目新しさへの関心”で脳が全開しているわけです」。

「過去の情報をすべてを白紙にして、見たまま感じたままに注意を払うのが幼児知能です」。

 それはすごい。もしその能力をビジネスに結びつける事ができたら画期的な大ヒット商品を発明するに違いない。しかし、我々が赤ちゃんだったころは閃きの天才だったのにノベルティ・プレファレンスはどこへいってしまったのだろう?

「天才脳の赤ちゃんと言えども、これを四六時中続けていると疲れて注意力散漫になる。だから大人になるに従って、いちいち全部に関心を寄せなくてもすむように、こういう時はこういうものだと覚えるようになる。当初はアウェー体験知識の集積の繰り返しで脳内にいろんな知識の引き出しができて、引き出しにあることはパスすることで疲れないようにする。つまり手抜きを覚えるわけです。しだいに引き出しが増えれば、こういうときはこういうものだ知識ができる。これが社会適応能力の正体です。しかしその反面、見たまま感じたままに注意を払う感性はだんだん鈍化してゆく」

 なるほど大人になればなるほどサボることを覚え、怠慢になり目新しい事への関心などという面倒くさいことはしなくなっちまっているわけだ。年を取るほどに脳は老朽化する。なんだか「アルジャーノンに花束を」みたいで悲しい。