ビジネスはアイデアから始まる。そのアイデアとは脳が閃いたことを意味する。では脳が閃くとはどういうことなのか?

 脳の働きはまだわかっていないし、人が何かをしようとしたときに脳がどう活動したのかは、複雑な要因が絡みあって意思決定しているため、閃きだけのメカニズムを見極める事は難しい、と聞く。

 それなら閃きの条件を絞ってみたらどうだろうか。例えばモバイル機器を使った場合という限定条件を付ければ、少しは「閃き脳」がどう働くのかを解明できるのではないか、と考えてみた。

 さらにモバイル機器を使った時に、どう「閃き脳」が働いているのかを科学的に見ることはできないのか、と考えてみた。

日経BP賞を受賞した日立の脳検査機を見つけた

 脳の検査装置はないものかと、あれこれ検索していると、日経BP社のニュースリリースにこんなものを見つけた。『2004年「日経BP技術賞」決定、大賞は「脳の活動状態測定技術」』だ。そこには「光トポグラフィーを利用した、脳の活動状態を測定する手法の開発と研究」というタイトルの下で日立製作所が技術賞の大賞を受賞しており、「赤血球が酸素と結合しているか否かで変化する近赤外線の反射スペクトルの計測によって、脳の活性部位を特定する手法。頭部に固定できる小型装置のため、日常生活の様々な場面における脳の活動状態を測定することが可能となった」という説明がされている。また,日立製作所のホームページにも「コアテクノロジー」として、「近赤外光を頭部に照射し、その反射光によって人の認知や行動を司る大脳皮質の働きを探る技術」として「光トポグラフィ技術」が紹介されている。

日立製作所の牧敦氏
日立製作所の牧敦氏

 さっそく、日立に取材を申し込んだところ、新事業開発本部人間指向ビジネスユニット部長(科学・技術担当)工学博士の牧敦氏にインタビューさせていただく機会を得た。

――御社で開発した脳を計る機器とはどんなものなのですか?

牧氏 「頭皮上から光を当て、脳の表面にある大脳皮質内のヘモグロビン濃度変化を計測することで、脳の活動を可視化できる仕組みになっています。核磁気共鳴画像装置(MRI)のように大型設置機材ではなく、半導体を使って携帯性を実現させるのに成功したのが特長と言えるでしょう。」

――その機器はどのような用途に使われるのですか?

牧氏 「人間の思考や認知機能の客観的検証を行うことで社会貢献につなげようと考え、“人間指向ビジネスユニット”と称して4人のプロジェクト活動を開始しています。例えば、バンダイと協力して赤ちゃんの認知機能・脳活動の計測を行い、赤ちゃんの脳の発達段階に即した玩具を開発するのに役立てていただいています。また、『黒板を使った授業』と『生徒全員の書字回答をモニタ上にリアルタイムに表示した場合の授業(生徒同士の思考の共有)』の学習効果を比較することで、授業カリキュラムによっては後者の方が明らかに教育効果が上がることがデータで確認できました。これは、人の視覚機能の優位性を活かすという脳科学的な仮説から生まれた結果です。こういった事例から、例えば教育用新製品を開発する時に、“人間に良い機能とはなにか?”といった製品コンセプトから設計するプロセスに、脳科学の知見は基本データとなるわけです。

 いろいろ実験してわかってきた例としては、例えば記憶するのには手書きがよい、とか、文字情報よりも視覚情報の方が一度に多次元の情報を認識できる、など、これまで感覚的にはわかるが客観性には欠けていた脳の働きを、科学的にデータ化することができるようになりました。」