前編ではビジネス創造で乗り越えるべき「5つのカベ」の中で、私たちにまだ馴染みがある「コツコツ力のカベ」、「マッチングのカベ」、「認知のカベ」について述べてきました。馴染みがあるといっても、ここでも大企業病のような問題が多々起こりえます。

 今回の後編では、議論をもっと深く進め、「認識のカベ」、「アイデアのカベ」を取り上げ、今まで私たちがあまり意識してこなかった問題にまで迫っていきたいと思います。

これまでの成功パターン

 前編では今までの日本の成功モデルとして、今回の震災でマスコミに大きクローズアップされた部品や素材、生産設備などのB2Bのビジネスモデルについても言及しました。このモデルは一般コンシューマーに対してアピールする必要性が低く、またその技術力がそのまま企業の事業力に反映されることが多い事業モデルです。

 このモデルでは、一層技術力を磨きその事業力を高める、そして今まで以上に販路を開拓していくというこれまでの路線を推し進めることが求められます。このモデルで生き残ってきた企業は、オンリーワンとして際立っていたからこそ生き残ってきたのであって、その技術力と併せてまだまだ現行の戦略は有効だと考えられます。

 震災でこれらの企業がダメージを受け、世界的なサプライチェーンに大きな影響を与えるのではないかと報じられること自体、日本にはこういう優秀な技術を持った企業が多く存在し、それらが影響力をまだまだ保持していることを象徴しているからです。

 逆にコンシューマー製品を作っている企業は、ますますライバルとの競争で劣勢に追いやられる危険性が大きいことは前回述べました。だからこそ、日本では機能しなくなったコンシューマー向けのビジネスの海外移転を各企業が急いているのです。また、現地の消費者に向けての製品のローカライズに1,2年前から本腰を入れ始めているのです。

 これらの方法は、比較的顕在化した状況をよく観察することで、すぐに対処方法がわかり実行できます。日本は今この状態だと思います。ただ、今取られている対処法は対症療法的であり、新しい創造的ビジネスを生み出すためには根本的な解決にはなかなかなりえません。

 顕在化した状況を基に、「コツコツ力のカベ」、「マッチングのカベ」、「認知のカベ」を超える方法は、なかなか長期で本質を捉えることができないという人間の性質上、直接的、短期的、そして対症療法的になりがちなのです。

 よく考えると、今までの日本の成功モデルは、日本独自のオリジナルな製品やサービスを日本が「発明的」に生み出したものではありません。自動車、家電、鉄鋼、造船、新幹線などの鉄道技術、液晶や半導体、コンピュータ・ソフトウエアも海外で生みだされたものです。それらを独自に進化させ、徹底的にブラッシュアップしてきたことが日本の今までの強みでした。技術だけではありません。サービスや販売を含めたあらゆるビジネスモデルもそうなのです。

 もちろん日本が得意とするブラッシュアップ路線も続ける必要があるでしょうし、実際各企業はそれを推し進めています。例えば日本発の携帯技術がグローバルでは不発に終わり、日本の携帯はガラパゴス携帯と揶揄されましたが、今各社はアンドロイドを用いたスマートフォンに一気に舵を切ろうとしています。そしてそこには、日本が得意とするブラッシュアップを推し進め、「おサイフケータイ」や「ワンセグ」といった日本ならではの機能を盛り込もうとする姿勢が見られます。