魚雷を放たれた船上の乗客は、今自分の身に起こっている命にかかわる大きなリスクを認知していません。少なくとも狙われた船上の人びとにとって、自分たちに向かっている魚雷に気づかない限り、そこにはリスクは存在していないのと同じなのです。そして自分たちに向かう魚雷を見て初めて、彼らにとってのリスクがそこに存在することが判明し、突然襲ってきた運命に直面することになるのです。

 即ち、「リスクの本質は認知して初めて存在する」といえるでしょう。

 同様にものの価値もそれを認知しないことには、認知していない人にとっては存在しません。例えば、ゴッホの絵は生前売れなかったという事実があります。つまり、ゴッホの絵もその価値も、人々にとって存在しなかったと同じなのです。

 このレトリックはビジネスにとっての「チャンス」を考えてみても同じように有効だということは、もうみなさんにもおわかりだと思います。

 世の中の問題も同じです。問題というものはすべて社会的なものであり、人が認識しないと人にとっての問題は存在しません。この問題をまず認識することで、問題の解決のステージに進むことが初めてでき、チャンスにつながるのです。

 数年前のリーマンショックによる経済危機からまだ回復しきっていない日本を震災が襲いました。これはビジネスにとっては大きな痛手ですが、この度の震災があって初めて浮き彫りにされたできごともいろいろとあります。

 例えば、昨今家電などのコンシューマビジネスで新興国や他の先進国から遅れをとっていると叫ばれていましたが、震災により日本からの部品の供給が断たれた世界中のメーカーで生産中断や遅れの影響があるということがマスコミを賑わせています。このことで日本は世界にとって重要な製品をまだまだ生み出していると自信を取り戻した方も多いと思います。しかし、同時にサプライチェーンの寸断が日本の回復に大きなマイナスを及ぼすのではないかと心配する声も多く聞かれます。

 このように世界の状況は刻一刻と変化しています。この大きな変化の中で私たちは、ビジネスのリスク、チャンスをどのように捉え、新しい価値を生み出していけばよいのでしょうか。

 今回は、現在の私たちが置かれている状況を再考し、新しい価値を生み出すビジネス創造の手法について改めて考えてみたいと思います。