前回は、レアメタル(希少資源)を取り上げ、資源が枯渇するという以前に世界で「囲い込み」が始まり、少なくとも需要を100%満たす供給は難しくなるという見通しについて解説しました。どんなに優れた技術や設備があっても、原材料がなければどうすることもできません。これから資源の熾烈な争奪戦が始まるのは避けられないでしょう。

 新興国の人口増加や経済成長、一方では米国の凋落など、国際情勢は今までと大きく変化しつつあります。それに伴い、市場環境や競争ルール、価値観、技術の前提条件など、これからのビジネスは根本的な部分から大きく変わっていく、と筆者は考えています。

「米ドル基軸通貨体制」の終焉

 これまでの世界は、米国への一極集中を特徴としていました。しかし、米ドル機軸による自由貿易体制(IMF-GATT体制)が構築された頃とは、世界のパワーバランスは明らかに変わりつつあります。かつて途上国と呼ばれていた中国やインドなどの国々は、「新興国」に成長しました。ユーロは、世界の外貨準備高に占める割合が1/4まで高まり、経済圏も拡大しつつあります。また、資源大国であるロシアも、世界経済の中での存在感が高まっていきます。

 今から25年前の1985年、米国は世界全体のGDPの1/3を占めていました(約32.3%)。しかし2008年には約23.6%へと低下し、米国の地位は相対的に下がってきているのが分かります。さらに今後、新興国の人口爆発を背景とする経済成長が進むことなどによって、2025年頃には18%程度まで低下するだろうと筆者は予測しています。このまま米国の地位は相対的に下がり続け、いずれ「環太平洋地域におけるリーダー」に過ぎなくなるでしょう。

 米国が他国を圧倒する経済力を誇り、米ドルが一人勝ちしていた時代は終わりを告げようとしています。筆者は、この2~3年でもう一段のドル安へと進む可能性が高いとみています。なぜなら、米国には「ドル安にせざるを得ない」という政策的な事情があるからです。バラク・オバマ米大統領は、「雇用の確保」と「外貨を稼ぐ」という二つの意味において「製造業」が不可欠だと考えています。金融業が中心であれば、投資のために米ドルの価値は高い方が有利ですが、2008年の金融破たんによって米国の投資銀行は業界ごと消滅してしまいました。製造業が中心となれば、輸出競争力を高めるためにはドル安の方が有利になります。

 各国は外貨準備として大量の米ドルや米国債を保有していますが、これまで米国債を引き受けていたのは、米ドルが基軸通貨だったからです。原油はもちろん、主要穀物、鉱物など、これらの市場取引には米ドル決済が求められていました。しかし、2000年にイラクが原油取引の決済を米ドルからユーロへ切り替えたのを皮切りに、基軸通貨としての米ドルの地位は大きく揺らぎ始めました。

 現在の世界最大の石油輸出国はロシアですが、その取引にはルーブルが必要です。イランも2008年に原油取引における米ドル決済を停止し、ユーロや円建てに変更しています。さまざまな決済で米ドルが使えなくなれば、各国は米ドルに代えて他の通貨による外貨準備を増やすようになります。新興国の成長によって今後米国の経済的地位が相対的に下がるのは必至であり、実質的に「米ドル基軸通貨体制」は終焉を迎えつつあるのです。