前回のコラムでは,2009年の世界テレビ市場を振り返ってみた。出荷台数と売上高,価格のトレンドを通じて,テレビ市場の回復や中国市場,「LED TV」と呼ばれるLEDバックライト搭載液晶テレビなどの肯定的な要因についても分析した。

 今回のコラムでは,2010年にはどのようなチャンスがあるかをまとめ,今後の市場を展望してみたい。

急増する“代替需要”

【1】FPDテレビ需要を,新規需要と代替需要に分類

 全FPDテレビ需要を“新規需要”と“代替需要”に分けてみた。ここでの新規需要は,世帯や人口の増加,2台目や3台目のテレビの購入などにより新たに生まれるFPDテレビの需要とする。一方,代替需要は,CRTテレビやリア・プロジェクション・テレビなどからFPDテレビへの買い替え需要を意味する。

 代替需要は持続的に増加し,2008~2009年に半数以上を占め,2010年には全FPDテレビ需要の63%に達し,市場拡大を牽引していくとみられる。

新規需要と代替需要の比率
FPDテレビの新規需要と代替需要の比率(2009年は推定,2010年以降は予測)

【2】表示素子別の代替需要

 このような代替需要の急増の背景には,何があるのだろうか。

 表示素子別の代替需要を見ると,特にCRTテレビからの移行が最大の成長要因となっていることが分かる。現在,全世界に設置されたテレビの台数は約30億台と推測される。2000年代に入り,従来のアナログCRTテレビは先進国市場を中心にデジタル・テレビへの移行が進んでいる。これと同時に,従来のCRTテレビは寝室に,FPDテレビはリビング・ルームに置かれるようになった。この中には,CRTテレビからリアプロ・テレビもしくはデジタル・チューナ内蔵のCRTテレビに移行した事例も含まれるが,全需要に占める比率は小さく,大部分はFPDテレビに移ったと見られる。

表示素子別の代替需要
表示素子別に見た代替需要の推移(2009年は推定,2010年以降は予測)

【3】地域別の代替需要

 下のグラフのように,既に先進国市場(図中のAdvanced Market)ではデジタル・テレビへの移行やCRTテレビの代替などが進み,FPDテレビは飽和状態に入った。

 これに対して新興国市場(図中のEmerging Market)は,テレビ普及率の低さなどから成長の余地が大きく,先進国市場のCRT代替需要を引き継いでいくと見られる。新興国市場の中でも,政策が牽引役となり需要を創出した中国では,農村地域でもCRTテレビから液晶テレビへの代替需要が巨大化した。他の成長市場でも画面サイズが比較的小さめの安価なFPDテレビの需要が爆発的に増加する可能性があり,今後もFPDテレビ市場は拡大していくと判断できる。

 それでは,先進国市場に,もはや需要を喚起する要因はないのだろうか。

 そうではないだろう。FPDテレビの買い替え需要がある。当初のFPDテレビはかなり高価だったため,買い換えるのは難しかった。しかし,価格が安くなり,故障修理などで必要な場合と新たに購入する場合のコスト差は縮小してきている。高画質化などの要求もあり,新規需要が生まれている。特にリアプロではランプ交換のコストが持続的に発生するため,新たにFPDテレビの購入を選択する消費者が多いと考えられる。

地域別に見たテレビ市場の飽和度
地域別に見たテレビ市場の飽和度(2009年は推定,2010年以降は予測)