そしてなんといっても「垂直分裂」現象の最たるものが電子産業である。深センの電子部品マーケットでは、ありとあらゆる電子部品がリールで売られており、携帯電話機の部品については液晶パネルやICチップ、果ては横流し品と見られるフィンランドNokia社製のプリント基板や設計図まで手に入る。北京の中関村にある海龍大廈というビルに行くと、CPU、モニター、マザーボード、メモリなどパソコン部品を売る小規模な店がきっしりと集積している。こうした部品が集積したマーケットの存在が、「スモールハンドレッド」を生む土壌になっている。

 加えて、電子機器については、デジタル化やソフトウエア化にともなって米国メーカー主導でモジュラー型(組み合わせ型)アーキテクチャに移行したことが「垂直分裂」を推し進めた要因となった。さらに、本来インテルグラル(擦り合わせ型)の輸送機器でも、「垂直分裂」化しているのが中国の特徴だ。

 典型がオートバイである。その仕組みは、まずホンダやヤマハのオリジナルモデルを模倣するメーカーが出現することから始まる。最初はライセンス契約による正規な製品でも、そのうち「山寨」メーカーが模倣品をどんどん製品化する。次に、部品メーカーが育ってコピー部品が大量生産されるようになって、汎用部品がカタログに載り、部品マーケットで売られるようになる。こうして、それらを買って製品化する「山寨的スモールハンドレッド」がさらに続々と「増殖」するということになる。

 オートバイに続いて、ガソリン乗用車でもこうした「垂直分裂」的な動きは出てきている。例えば、通常自動車メーカーは基幹部品であるエンジンにしてもほぼ100%内製しているが、中国のローカルメーカーは三菱自動車などから調達する傾向が強い。各種モジュールについても、カスタム的ではなくブラックボックス化された標準的なモジュールを購入することが多い。それでも、乗用車は部品点数が多いことなどから、携帯電話やパソコンほどには垂直分裂は進んではいない。

 これが番組で紹介されていたような超低価格の電気自動車となると、より「垂直分裂度」が高まるようだ。まず、これらの電気自動車は、乗用車のダウングレードではなく、オートバイや二輪車のアップグレードとしての製品である。冒頭で紹介したメーカーは農家出身だが、番組では電動二輪車メーカーが電気自動車に進出したケースも紹介されていた。つまり、オートバイや二輪車産業で確立した部品マーケットがそのまま使える。番組で紹介されていた部品マーケットは、こうしたオートバイや二輪車の部品マーケットか、それに乗用車など四輪車向け部品も加わった発展形だと思われる。加えて、きちんとしたモジュラーアーキテクチャにはなっていないものの、エンジンなど機械部品が減って、垂直分裂に相性がいい電子部品の比率が高まるという要因も大きい。

 こうした超低価格な電気自動車の動きを日本メーカーとしてはどう見たらよいのだろうか。13万円のクルマを日本メーカーが出すなどということは非現実的だと思うが、そこをエントリーとして「3級・4級市場」と言われる中国内陸部9億人の市場のモータリゼーションが進む動向には注意を払う必要があるだろう。

 これらの超低価格車は現状では、ナンバープレートや運転免許もいらない「山寨的」なものだが、携帯電話と違って、交通事故などのリスクが大きい製品である。いずれ政府がなんらかの規制をしいてくる可能性もある。その規制が厳しいほど、日本メーカーの出る幕は多くなる。

 もちろんスモールハンドレッドのほとんどはいずれ淘汰されていくと考えられるが、その中で独自の低コスト技術開発などの「中国流イノベーション」を成し遂げる企業が出現する可能性も見ておきたい。ホンダが、模倣されていた中国の低価格オートバイメーカーと提携して、日本企業の品質の良さと中国企業のコストダウン技術をうまく組み合わせた製品を中国市場に投入できたように、補完関係を探る手もあるだろう。

 さらには、垂直分裂が進行することを見越して、モーターや電池など基幹部品で収益を上げることも考えられる。これは部品メーカーの戦略ではあるが、三菱自動車が中国ではガソリンエンジンの供給元になっているように、自動車メーカー自身も部品ビジネスに本腰を入れることも視野に入れるべきかもしれない。

 そしてもう一つ、この「『山寨』としてのスモールハンドレッド」の動きに日本が学ぶことがあるとしたら、前述の日本人エンジニアが、「ここに来ると私も小さな中小企業でも作ってみるかなという気になる」と語ったような、雰囲気や環境を日本でもどう作っていくかを考えるきっかけとすることだろう。