SID 2009における技術開発動向を,総括レポートとして報告する。著者は今年のSIDで,FPDの新たな潮流が見えてきたと感じている。

 今年の開催地San Antonioは,テキサス州南部にありメキシコとの国境に近い。人口は126万人,全米有数の大都市である。西部開拓時代の雰囲気を色濃く残す歴史の街であり,テキサス独立戦争で有名なアラモ砦がある。街の中心部にはリバー・ウォークと呼ばれる人工の水路の両側に設けられた散策路があり,その雰囲気から「米国のベネチア」とも呼ばれ,年間1000万人以上が観光に訪れるという(下の写真)。

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 著者も,宿泊先のホテルからこのリバー・ウォークを歩いてSIDの会場であるコンベンションセンターに往復した。途中一度も道路を横切ることなく,会場まで気持ち良く散策が楽しめる。リバー・ウォークにあるレストランはどこも雰囲気が良く,川を眺めながらの食事もなかなか楽しいものである。

 しかし外国からここに行くのはなかなか大変である。西海岸や東海岸の主要都市への飛行機は便数が少なく,しかも小型機が多いので席が取りにくい。筆者の場合にはロサンゼルス空港で乗り継ぎに6時間待たされ,San Antonioに着いたのは夜中の12時ごろであった。今年のSIDは世界同時の不景気に新型インフルエンザが加わってしまったため,例年の半分ほどの参加者数にとどまってしまったが,もう少し交通の便が良い都市で開催すれば,ここまで人が減ることもなかったのではないだろうか。

フレキシブルへの応用まで見据える


 さて,今年のSIDのキーワードは何かと聞かれると,フレキシブルだと答える人は多いだろう。筆者もそう思う。フレキシブルと言っても,電子ペーパーや反射型液晶ディスプレイ,有機ELディスプレイなど,さまざまなデバイスがある。その中でもアクティブ型の有機ELディスプレイが,有機TFTや酸化物TFTという次世代デバイスを利用して,フルカラー動画をデモしたことの意義は大きい(Tech-On!関連記事1Tech-On!関連記事2)。著者は,この最終的なフレキシブルへの応用まで見据えたアクティブ型有機ELディスプレイの技術動向が,このSIDで明確になったと考えている。


図1
図1 SID 2009で発表・展示された主なアクティブ型有機ELディスプレイ
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 図1は今年のSIDで発表・展示された主なアクティブ型有機ELディスプレイの画面サイズと解像度をまとめたものである。この図から次の三つの領域が見えてくる。

1) 従来の技術
2) 大型テレビを目指す次世代技術(青で囲んだ領域)
3) 新規市場開拓を狙う将来技術(緑で囲んだ領域)

これら三つの領域について,技術トレンドを読んでみる。

 まず量産可能な従来技術の動向である。
 アクティブ型有機ELディスプレイで圧倒的な力を見せる韓国Samsung Mobile Display Co., Ltd. (以下,SMDと略)は,従来のLTPS(Low Temperature poly-Si: 低温多結晶Si) TFTにFFM(Fine Metal Mask)蒸着方式の技術を用いて,300ppi以上の高解像度パネルや5~7型のカーナビやモバイルPC用途を意識した展示をしていた。これは携帯電話機のメイン・ディスプレイがVGA以上が当たり前となってきたため,技術的には困難な高解像度に有機ELディスプレイであえて挑戦し,液晶ディスプレイに対抗するとともに,携帯電話機以外の新たなアプリケーションにも積極的に参入しようという同社の強い意気込みの表れであろう(Tech-On!関連記事3)。