問屋の、もう一つの裏機能

 いや、それだけではない。問屋について考えているうちにもう一つ、問屋とともに失われつつある重要な機能に気付いたのである。流行の言い方をすれば、セーフティネット。零細事業主である作家や工房を資金的にサポートし、景気の緩衝材となる機能である。

 代々の仕事を引き継ぐある工房主の方が話しておられた。「昔は、問屋さんが折々に買ってくれたものです。季節とか景気とかによって売れる時期も売れない時期もあったと思いますが、なるべくコンスタントに仕入れて在庫してくれていたんです。だから、安心して仕事が続けられた」。けれど、問屋さんを通さない流通経路がどんどん太くなり、問屋自体もその機能を放棄しつつあるという。「最近は、買って問屋さんの方で在庫するということはやってくれなくなりました。それで、小売店から注文があったときだけ言ってくるんです。単なる仲介役になってしまっているんですね」。

 かつてはメーカーでも、同じような状況があったと松下電器産業(当時)でかつて副社長の職にあった水野博之氏が話しておられた。家電がまったく売れない時期があったのだが、会社はこれに気付かず、じゃんじゃん作り続けていたのだという。それは、問屋さんが買ってくれていたから。少々売れない時期があっても急に仕入れを止めたりはしないというのが、問屋の矜持だったらしい。

 もっとも、パナソニックくらいの大企業になれば、問屋という緩衝材にたよらなくとも、少々の不況はみずからの体力で乗り切れるかもしれない。けれども、資金力に乏しい中小企業や個人経営の工房、職人さんたちにとっては、「売れない時期にでもお付き合いで買ってくれる」かつての問屋さんは、非常にありがたい存在だったようだ。

 その問屋が仕事を失い、残った問屋もかつての資金的緩衝材としての機能を果たさなくなりつつあるとして、その役割を誰かが替わって果たし得るのだろうか。まっさきに候補として挙がるのは、資本の本山である金融機関。けれどもこの大不況が幕を開けたとき、彼らが中小企業に対して真っ先に何をしたかを考えれば、あまり期待できそうにない。大きな資本を保有する存在としては大企業も候補になるが、やはりあてにはならない。消費が細れば即座に下請けへの発注を止め、リアルタイムで市場環境に対応するのがステークホルダー重視の「正しい経営判断」とする風潮がビジネス界を覆っているからだ。